こちら診察室 知ってる?総合診療科

第6回 診断難しい家族性地中海熱
「手術したら虫垂炎でなかった!」 ~総合診療医の出番です~

 総合診療医は特定の疾患や臓器に限定することなく、多角的に診断、診療を行います。医療が専門家、細分化した中で、そうした総合診療医が診療してよかった例は数多くあります。理解がしやすいよう、実例を基に典型的な形にしていくつか紹介します。 

〔1〕繰り返す高熱と腹痛 

 ◇原因不明で入院 

検査画像を見ながら説明する平山教授

 30歳の女性。数年前から2-3カ月に1回程度の割合で38度以上の発熱と腹痛が起きるようになりました。数日から1週間で軽くなっていましたが、ある時、腹痛が強くなり病院で受診。腹部エコー検査を受けると腹水がたまってたため、腹膜炎を併発していると診断されました。 

 虫垂炎が疑われ、開腹手術を予定していました。しかし、翌日には軽減したため手術を見送ると数日で改善。その後、数カ月間は発熱も腹痛も起きませんでした。 

 この患者の場合、腹膜炎も起こしているため虫垂炎が疑われてしまった症例です。ただし、時期がくると自然に改善して反復すること、皮膚の発疹などが虫垂炎と合致しません。こうなると消化器専門医での診断は難しいのです。 

 発熱と腹痛が再び出た時に初めて総合診療科を受診し、原因不明の発熱精査のため入院しました。

 遺伝子検査

 総合診療科は(1)小児のころにも何度か原因不明の発熱で困った(2)必ずしも定期的ではないが周期的に反復している(3)ほとんどの場合で腹膜炎など漿膜(臓器の表面をおおっている薄い膜)の炎症が併発している(4)下肢に皮膚の発疹(紅斑)が出たこともある-ことなどから、家族性地中海熱を疑いました。 

 そして、次回の発熱時に痛風発作予防や家族性地中海熱などの薬剤「コルヒチン」を試すとともに遺伝子検査も行いました。その結果、家族性地中海熱と診断され、コルヒチンの内服により、発熱と腹痛は起きないようになっています。 

 ◇虫垂炎でないのに開腹 

 この患者は開腹されませんでしたが、家族性地中海熱の患者が手術を受けたものの虫垂炎ではなかった、という話はそれほど珍しいわけではありません。臓器別専門医がこのような鑑別疾患を想起するのは難しいと言えます。 

 家族性地中海熱は比較的まれで、必ずしも腹膜炎とは限らない胸膜、腹膜、心膜など漿膜の炎症を併発することが多いです。比較的珍しい疾患は、総合診療医による診断が良いケースの一つと言えます。 

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