甲状腺がん〔こうじょうせんがん〕

 甲状腺のがんには乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、未分化がんがあります。大部分を占めるのは乳頭がんです。幸いなことに悪性度は高くありませんが、周囲のリンパ腺や肺などの遠隔組織に転移も起こりえます。
 触診で甲状腺の一部にかたい腫瘍を触れ、超音波画像で境界の不明瞭な腫瘍が見つかります。針生検で細胞の悪性度をみて、悪性腫瘍であることを確認します。甲状腺機能は正常ですが、血中のサイログロブリン(甲状腺ホルモンの前駆物質を含むたんぱく)濃度が高くなります。しかし、サイログロブリンは良性の腺腫や他の甲状腺疾患でも増加するので、がん診断の決め手にはなりません。
 甲状腺がんの治療は外科的な腫瘍の摘出です。遠隔組織に転移がある場合には、甲状腺をがんとともに全部摘出したあとに多量の放射性ヨードを服用することもあります。転移した甲状腺がんがヨードを取り込む機能を保持している場合には、その放射線によってがん組織を破壊しますが、ヨードを取り込まない転移巣に対しては無効です。放射性ヨウ素治療が無効な場合や進行・転移した甲状腺がんに対して、がん細胞の特定の分子異常を標的とした薬剤も使用されます。また、遺伝子変異の有無を調べることで、最適な分子標的薬を選択する個別化医療もおこなわれてきています。
 なお、未分化がんはきわめて悪性度が高く、進行が急速で化学療法にも反応しにくいため予後は不良です。このほかに、甲状腺にはカルシトニンというホルモンを分泌する髄様がんも発生しますが、比較的まれです。

(執筆・監修:東京女子医科大学 名誉教授 肥塚 直美)
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