成人後もしこりに注意
~先天性甲状腺機能低下症(国立成育医療研究センター 鳴海覚志室長)~
2千~3千人に1人の割合で新生児に見つかる先天性甲状腺機能低下症。診断されると治療を受けて大半が問題なく成人する。ただし、成人した後甲状腺が大きくなっている患者の中には、高い確率でしこり(甲状腺結節)があることが最近分かった。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)分子内分泌研究部の鳴海覚志室長に話を聞いた。
甲状腺結節が見られた割合
◇ほぼ全例でホルモン治療
甲状腺は喉仏のすぐ下にある幅4~5センチの臓器。代謝や成長、発達などを調節する甲状腺ホルモンを作り、血中に分泌する働きをしている。
「甲状腺の機能が生まれつき弱いため甲状腺ホルモンが不足したり、作用が低下したりするのが先天性甲状腺機能低下症です。全国に4万~6万人の患者さんがいると考えられます」と鳴海室長。
日本では1979年以降、全ての乳児に生後すぐ、先天性の病気を見つける目的で新生児マススクリーニングという検査が行われている。甲状腺の異常が見つかると、甲状腺ホルモン製剤を1日1回内服する。「診断された乳児はこの治療を受け、多くが成長し、発達や生活の質に問題は生じていません」
◇腫れがあると7割でしこり
治療により無事に成人し、既に中年期に入った患者も少なくない。ただ、成人患者の甲状腺の状態はこれまで分からなかった。
そこで鳴海室長らは、79年以降に生まれた30歳代を中心とする先天性甲状腺機能低下症の103人を対象に、超音波検査で甲状腺のサイズやしこりの有無などを調べた。同研究では、直径1センチ以上のしこりを甲状腺結節と定義した。
その結果、甲状腺結節が見られたのは、幅4~5センチの正常な甲状腺サイズの患者で4%だったが、甲状腺腫(甲状腺が大きくなった状態)がある患者では71%に上った。萎縮していた患者では観察されなかった。一方、健康な成人168人では6%だった。しこりはいずれも悪性でなかった。
鳴海室長は「甲状腺腫がある先天性甲状腺機能低下症患者で、甲状腺がんの合併が見られたとの報告もあります。甲状腺の腫れは大きくならないと、患者が気付くことは少ない。患者が一般的ながん好発(がんになりやすい)年齢に近づいていることも踏まえ、甲状腺に腫れがある患者は2~3年に1回、超音波検査を受けると安心でしょう」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2023/08/16 05:00)
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