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「朝食時差ボケ」という言葉を知っているだろうか。朝食を抜くと、午前中、頭がボーとして体がだるく、仕事や勉強に対するやる気が出ない状態のことだ。これは人間の「体内時計」の狂いが一つの原因とされる。「時間栄養学」に取り組んでいる早稲田大学先進理工学部教授で先端生命医科学センター長の柴田重信氏は「体内時計と食事との関連性をもっと知ってほしい」と力説する。
せめぎ合う脳と臓器の体内時計
◇脳に主時計、臓器に末梢時計
2017年に体内時計に関係する領域で研究者がノーベル生理学・医学賞を受賞した。これにより、体内時計という概念はより身近なものとなった。朝食を食べないのは、良くない、夜に腹いっぱい食べるのは良くない―。昔からこう言われてきた。柴田氏は「『時計遺伝子』の研究によって、それが学問的に裏付けられるようになってきた」と話す。
この時計遺伝子は体中にあるという。標準時計に当たる主時計は脳に、ローカル時計である末梢(まっしょう)時計は肝臓や腎臓などさまざまな臓器に存在する。末梢時計にはそれぞれ特徴があるので、バラバラに働くと困る。「そこで、主時計である脳がオーケストラの指揮者のようにタクトを振って、全体に調和が取れたハーモニーをつくり出す」。司令塔の主時計が壊れると、体内時計は調子が狂う。
1日は24時間だが、実は体内時計は毎日30分間ずれる。2日で1時間だから、半月で8時間のずれが生じることになり、それを補正するメカニズムが働く。柴田氏は「朝の光が主時計を30分進める。夜は逆に光を浴びると、主時計は遅れる。夜にパソコンやスマートフォンをやり過ぎると、ブルーライトの光によって『夜型』になってしまう」と指摘する。
時間栄養学に取り組む早稲田大学先進理工学部の柴田重信教授
◇食事が末梢時計に影響
一方、末消時計の活動は食事に影響される。朝、昼、夕の3食を5時間遅らせ、正午、午後5時、午後10時に取ると体内時計がどうなるかが実験された。結果は2時間30分ずれた。「主時計は影響を受けなかったが、末梢時計は5時間遅らせようとした。しかし、そのせめぎ合いの結果として2時間30分のずれが生じたのだろう」と推測している。
「頭では『朝の9時だ。仕事をしよう』と思っても、首から下は午前11時30分にならないと調子が上がらない」
◇炭水化物とたんぱく質でリセット
末梢時計のリズムを整えるためには、食事の内容も大切だ。米やパンなどの炭水化物と、肉や魚、卵、牛乳などのたんぱく質の組み合わせが良い。炭水化物を食べると血糖値を下げるインスリンというホルモンが分泌し、インスリンからの信号が末梢時計を合わせる。たんぱく質も「IGF―1」とうインスリンに似た物質が末梢時計のリセットに役立つ。
「私は講演などで『遅寝、遅起き、夜飯』と逆説的に言う。もちろん本当は『早寝、早起き、朝ご飯』。これには、先人の知恵が込められている」
食事と食事の間の時間にも注意したい。朝食抜きで正午ごろに食事をし、その次が午後10時か11時に食事を取るとすると、「絶食」の時間が長過ぎる。柴田氏は「末梢時計は昼の食事を朝食だと勘違いしてしまう」と言う。当然ながら、体内時計は乱れる。朝はインスリンの分泌が多く、朝食を多少たくさん食べても血糖値は上がりにくい。一方、夜はインスリンの効きが悪く、血糖値が上がりやすい。それなのに、夜はどうしても過食になりがちだ。
朝食時差ぼけで元気が出ない
◇分食の勧め
とはいえ、会社員は仕事で夕食の時間が遅れることもしばしばあるだろう。塾に通う小学生や中学生たちも事情は似ている。そこで柴田氏は「賢い分食」を勧める。塾に通う子どもたちは勉強が始まる前に、おにぎりを食べる。帰宅してから副食・副菜などを食べる。柴田氏は「理想は主食と副食に分けることだが、2等分でもよい」と話す。
分食は会社員にも当てはまる。夕方が近づくと、小腹がすくのでちょっと間食したくなる。「私もよく食べるが、例えば食物繊維が入ったクッキーのような菓子がよいだろう」。夕食が遅くなっても、血糖値の上昇を緩やかにし、食後に血糖値が急上昇する「血糖スパイク」を起こさないからだ。
ポイントは朝食をきちんと食べ、食事は炭水化物とたんぱく質をしっかり摂取することだ。ただ、柴田氏は「体内時間には個人差があることも覚えておいてほしい」と付け加えている。(鈴木豊)
(2019/03/07 06:05)
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