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動画で患者へ説明―川崎市立多摩病院
~職員の負担減、収益性アップ~

 医療従事者の働き方改革が求められる中、新たな試みによって業務改善に取り組んでいる事例を紹介する。この試みは同時に、患者へのサービス向上にも寄与するものだ。

川崎市立多摩病院に導入されたQRTV

 ◇業務改善が大きな課題に

 川崎市立多摩病院は2024年11月、全国の病院で初めてタブレット型テレビ「QRTV」を導入した。これまで看護師らが対面で行ってきた入院案内などを動画で見せることで、負担を減らす。長島悟郎院長はその狙いを、「職員の労働環境を改善すると同時に、入院患者の利便性を高めたい」と説明する。

 QRTVは、病室のベッド脇の床頭台に取り付けができるサイズで、アームで高さを調節することができる。画面タッチの他、リモコンでも使用が可能だ。

 長島院長は「経営は厳しい」と言う。新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れていた時期は収支がプラスだったが、それ以降は苦しい状況が続く。病院食の費用や電気代は上昇している。行政側は効率化を求める。働き方改革に関連して職員の人件費も上昇するため、業務改善は大きな課題だ。

長島悟郎・川崎市立多摩病院長

 ◇入院案内を動画で

 病気の説明や入院案内、手術の説明、退院手続きなどを看護師や医師らが患者や家族と対面で行ってきた。一人ひとりに説明する職員の負担は小さくない。これらをQRTVの動画が代替することで、負担軽減につなげる。まず、入院案内を約30分の動画で見せることからスタートした。

 「これから動画のコンテンツを増やしていき、将来的には外来にも入れたい。さらに、AI(人工知能)を活用することで血圧や脈を測ったりする。最終的には薬を管理させるようにしたい。患者は手術の後など、意識がぼやけたり、思考が混乱したりし、薬を自分で管理できないこともある。もちろん、医師のチェックは必要だ」

 ◇患者の利便性向上を

 長島院長が重視するのは業務改善だけではなく、患者の利便性向上だ。院長は20年ほど前に福井大学病院を訪れ、驚いたという。病院内の売店にはビデオのレンタルサービスがあり、旅行の案内もしていたからだ。「いまだに入院患者の方は、自販機でカードを買い、テレビの地上波だけを見るしかない。これだけコンテンツが増えている時代にそれでよいのだろうか」と疑問を呈した上で、「就寝までの2~3時間、映画を観たいという人もいるだろう。そういうニーズを満たす必要がある」と話す。

 QRTVでは、YouTubeも利用することができるし、患者が契約していればNetflixなどの視聴も可能だ。利用料は冷蔵庫の使用料も含め、1日700円となっている。

 ◇看護師らの時短につなげる

 QRTVを開発したのは、キャストリコ。事業開発本部の岩戸禎二・本部長は「働き方改革につながる業務改善の一助になれば、と考えた」と話す。タッチパネルやリモコンで簡単に操作できるQRTVのサービス機能動画を提供することで、看護師らの負担軽減、労働時間短縮につなげたいと言う。

ベッドサイドに置けるQRTV=川崎市立多摩病院

 QRTVはオンライン面会機能も備える。パネルのオンライン面会画面をタッチすると、カメラが起動し、準備が整う。面会したい相手のスマートフォンの携帯番号を2回入力すると、ショートメッセージが送られる。相手側スマートフォンに面会用URLが届き、双方のカメラを使用したオンライン面会を誰でも簡単に行えるようにした。実際の面会では、看護師が面会室の予約を取り、患者を車椅子で移動させ、連れ帰る。2~3人の手がかかることもあるという。岩戸氏は「そうした看護師の声を踏まえた」と話す。

 キャストリコは同病院にリネンなどを提供している業者と提携し、QRTVに「買物代行サービス」を搭載している。入院患者が画面上で院内のコンビニで販売しているものを注文することができ、注文商品を担当スタッフがベッドまで配達し、その場で患者本人が各種クレジットや交通IC、QRコード決済などで支払いを完了することができる仕組みを整えた。飲み物などを欲しがる患者の希望で、お金を渡された看護師がコンビニに買い物に行くことは負担である上、患者のお金を預かることを看護師たちは嫌がる。そこで、QRTVを通じて注文し、看護師の負担軽減を可能とした。

 ◇将来はVRも

 「将来的にはVR(バーチャルリアリティー)を使い、例えば、フランスの人気観光地、モンサンミッシェル訪問をリアルに近い感覚で体験してもらう。旅行の広告は親和性があり、病院に広告収入が入ることで、結果的に患者の負担軽減につながる」

 QRTV導入には、Wi-Fi環境を整備する必要がある。有線の敷設はもちろん、AP親機と複数のAP子機を無線で接続しメッシュネットワークを構成する親機と子機、有線と無線を組み合わせる「メッシュWi-Fi」という方式もあり、病院の環境に適した方法を用いて工期を短縮し、経費削減につなげたいとする。(鈴木豊)



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