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熱中症に負けない体を
~短期と長期の対策が大事~

 夏が近づくと、気を付けたいのが熱中症だ。一般的に、熱中症は体が暑さに慣れていないときになりやすい。本格的な夏を迎える前、湿度が高い6月や急激に気温が上がる梅雨明けなどが要注意だ。梅雨入りまでに体温調節機能を高め、体を暑さに慣らす「暑熱順化」に取り組んでおくと予防策になる。

東京都心で日傘をさす人たち(2022年5月29日、東京都中央区)

 暑さに強くなるには、暑熱順化の実践は大事だが、一年を通した対策も欠かせない。熱中症対策に詳しい済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜医師は、計画的な水分補給や筋肉維持を意識した食事を心掛けてほしいと話す。また、朝ご飯をしっかり食べることも予防につながると呼び掛けている。

 ◇普段から水分補給、筋肉維持を

 人間の体は暑さを感じると、自律神経が働いて、汗をかいたり、血管を広げて皮膚に流れる血流を増やしたりすることで体の熱を逃がす。この熱放散による体温調節ができないと、体内に熱がこもって体温が上昇し、熱中症が起きる。

 夏に備え、外遊びや軽めの運動、ゆったりとした入浴で汗をかくことを習慣付けると、体が暑さに慣れていき、体温調節の機能も高まって、熱中症にかかりにくくなる。この暑熱順化には2週間程度かかるとされ、いったん暑さに慣れた後も汗ばむ程度の運動などを続けることで効果は持続する。

 汗をかくにも、脱水状態を防ぐにも、水分補給が必要なのは言うまでもないが、そのタイミングと量については個人差があり、高齢者や女性は不足しがちだ。

 必要な水分を効率良く取る方法として、谷口医師が提案するのは、コップ1杯程度に当たる約180ミリリットルの飲料を一日8回に分けて飲むこと。タイミングは、起床後、朝昼晩の食事食事食事の間の2回、入浴前、就寝前。

 これを、夏に向けては回数や量を増やすなどして、「水を飲む訓練」に励んでほしいという。「暑くなってから急に飲むと胃腸が適応できないし、暑くなってきたときは汗が多いので水分も失いやすい」と谷口医師は説明する。

 一年を通しては、水をためる筋肉を蓄えることも大事だ。筋肉量が落ちると、それに伴い、体の水分量も減る。高齢者や女性が脱水状態になりやすいのは、筋肉が少ないことも関係する。

熱中症対策を語る谷口医師

 筋肉量は40歳を過ぎると年1%ずつ減少するとも言われる。そのため、「40歳を超えたら、下半身の筋肉を維持することを意識してほしい。立って歩く時間を増やすだけでもいい。そして、タンパク質をしっかり取ってほしい」と谷口医師は話す。

 筋肉を落とさない食事のコツは、タンパク質を構成する必須アミノ酸の一種で、筋肉の維持や増量を助ける働きがあるロイシンを多く含む肉類や魚介類を食べること。含量は減るが、ロイシンは大豆製品や乳製品でも取れる。

 年齢を重ねるほど肉や魚を食べる量が減るため、「牛乳、豆腐やチーズなど手軽なものでいい。普段の食事にロイシンを含む食品を一つ増やしてみて」と谷口氏。加えて、タンパク質の摂取量は体重1キロ当たり1グラムが理想だが、その総量を朝昼晩の食事で均等に取ってほしいと話す。

 ただ、タンパク質は熱中症にならない体づくりでは有効だが、体温を上げる作用があるため、めまい頭痛など、熱中症が疑われる症状が出たときは摂取を避けることも重要だ。

 ◇朝ご飯もカギ

 朝ご飯をきちんと食べることも熱中症対策の一つになるという。「一日3食取るのは基本だが、特に朝を意識してほしい」と谷口医師。

朝ご飯をきちんと食べることも熱中症対策になる(イメージ)

 そもそも、熱中症は午前中に起きやすい傾向がある。起床時は脱水状態になりやすく、朝は出勤・通学、家事を含め、体を動かす時間も長い。その上、気温も急上昇するため、朝ご飯で水分やエネルギー、栄養を補わないと、体が暑さにうまく対応できない。

 谷口医師が提唱している理想的なメニューは、抗酸化・抗炎症作用を持つオリーブ油をかけた水分・ミネラルが豊富な生野菜のサラダ、タンパク質の多い魚、さまざまな栄養素を含む具だくさんのみそ汁。それに、オリーブ油と同じく、抗酸化・抗炎症作用を持ち、暑熱順化を促す働きもあるビタミンCの多いキウイフルーツなどの果物。

 谷口医師は「朝はバラエティーに富んだものを食べてほしい。(費用や準備など)大変かもしれないが、暑さに慣れるまでは特にしっかりと食べると予防になる」と念を押す。「さらに大事なのが起床後に飲むコップ1杯の水。睡眠による脱水を補給し、自律神経の働きを整え、胃腸を活発化させてくれる」。

 熱中症のリスクは、普段の生活で、少しの意識を早めに変えるだけで下げることができる。だが、事前に取り組む人は多くない。谷口医師は「熱中症は誰でもかかる。自分はならないと過信している人ほど危ない。対策を取ってほしい」と注意喚起した。(及川彩)

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