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たばこで労災が増加も
分煙では防げぬ「受動喫煙」 企業が禁煙強化の流れ

 「どのように進める?企業におけるたばこ対策」と題した、企業のたばこ対策担当者らを対象にしたシンポジウムが都内で開かれた。改正健康増進法が施行され、来年4月には事務所や工場の屋内が原則禁煙になる。喫煙室を設置すれば施設内でもたばこを吸えるが、受動喫煙の健康被害などに詳しい産業医科大学の大和浩教授はシンポジウムで「分煙で受動喫煙を完全に防ぐのは不可能」と断言。喫煙者は労働災害にあう割合が高いとの調査結果も示されている中で、法的な裏付けを含めたより厳しい職場での喫煙対策などが議論された。

 ◇公園に「たばこ難民」殺到

 改正法は望まない受動喫煙の防止を目的に掲げ、従来は努力義務だった受動喫煙の防止を義務化。同法の施行を受けて7月1日から学校や病院、行政機関は敷地内が原則禁煙(屋外喫煙場所は例外)になった。

大和浩・産業医科大学教授

 これを機に東京都庁は屋外にも喫煙所を設けなかったため、都庁近隣の公園に「たばこ難民」が殺到。公園利用者から文字通り煙たがられる事態になった。受動喫煙が、禁煙施設の外に広がった形で、新たな対策を求める声も挙がっている。

 ◇労災ゼロは喫煙者ゼロから

 企業の事務所や工場は、東京都庁のような行政機関や学校・病院ほどには規制が厳しくない。屋内喫煙所の設置が許されているが、大和浩教授は、喫煙室のドア開閉や人の出入り時に煙が出るほか、喫煙者の肺に残っている煙は約2分半の間、はき出され続けるとした。「喫煙室で受動喫煙を防止できない。不適切」と強調する。

 大和教授は、埼玉県八潮市の工業団地で行われた調査から、喫煙者は労働災害のリスクが非喫煙者に比べて1.6倍高くなると紹介した。要因としては(1)ニコチン濃度が下がって集中力が途切れる(2)一酸化炭素による酸素不足-などが複合的に重なったと思われると語った。

大和浩・産業医科大学教授提供

 「3000人が働いている製鉄所の調査でも、1日10本以下の低依存者で1.52倍、10~20本の中等度依存者で1.98倍、労災リスクが高いとの結果が出た」。大和教授は「製鉄業の労働災害ゼロの入り口は喫煙者ゼロ」と言い、禁煙は重要な経営課題の一つだとした。

 ◇敷地内、就業時は完全禁煙

 受動喫煙で年間1万5000人が死亡するとも言われる中、東京都受動喫煙防止条例の策定に深く関わった弁護士・東京都議会議員の岡本光樹氏はシンポジウムで、分煙職場で働く非喫煙者が職場を相手取った裁判で勝訴するケースが相次いでいると指摘。「受動喫煙からの保護が労働契約法の安全配慮義務違反に該当する」ためで、使用者がこうした訴訟が起きるのを未然に防ぐよう求めた。

 そのための抜本的な対策として、岡本氏は屋外を含む企業敷地内や就業時の完全禁煙が今後の課題となるとした。

 ◇「喫煙の自由」に制限

 事業所施設内の完全禁煙について岡本氏は「企業秩序定立権限の一環である施設管理権に基づいて定めることができる」と指摘。就業時間中の禁煙については「(経営者の)労務指揮権、企業秩序定立権限および、(従業員の)職務専念義務、企業秩序遵守義務に基づいた禁止措置が考えられる」としている。

弁護士・東京都議会議員の岡本光樹氏

 禁煙の社会的な広がりに対抗して喫煙者が求める、いわゆる「喫煙の自由」に関して岡本氏は「『権利』と呼べるか疑問。判例からも制限に服しやすいと理解される。受動喫煙は『他者危害』で喫煙の自由は制限される」との見解を示した。

 また、喫煙者を新規採用しないとの施策については、「始めている企業は増えている。原則として(企業に従業員)採用の自由がある。(喫煙の)申告を求めることも違法ではない。最高裁判例に基づいて認められている」と語った。

 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、東京都の受動喫煙防止条例に類似した厳しい条例を制定する自治体が増えるのは確実。公共スペースに加え、職場においても禁煙が広がる流れは止められない。(解説委員・舟橋良治)

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