特集

高度化する在宅医療
災害時の停電対策が課題

 医療の高度化が進むにつれ、酸素の濃縮器を使った人工呼吸器や吸引器、輸液注入ポンプなどの電動の医療機器に支えられて在宅生活を送る患者も多くなってきた。それだけに、地震や台風などの災害停電による作動停止は、死の危険をもたらす深刻な問題だ。

自宅で人工呼吸器とたんの吸引器を使う患者=写真は本文は関係ありません

 重症の小児患者を多く診ている国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)は、在宅で療養を続ける小児患者と家族を対象に、停電への対策を中心にした「医療機器が必要な子どものための災害対策マニュアル~電源確保を中心に~」を作成した。センターの性格上、小児患者を想定しているが、同様の医療機器を使う高齢者や成人患者にも参考になるだろう。

 ◇きめ細かいマニュアル

 災害対策マニュアルはA4版25ページ。被災地の広い範囲で停電が長期間続いた2018年の北海道胆振東部地震を受けて同センター在宅医療支援室が作成し、ホームページ(HP)でも公開されている。特徴は、医療機器ごとの電源対策の前に「チェックポイント」として指摘されている対策の多くを被災前に取り組めることだ。

 停電時の電力会社や医療機器メーカーの問い合わせ先の確認をはじめ、家庭で使用している医療機器の電源の方式や停電時に使える内蔵バッテリーなどがあるかどうかだけでなく、実際に外部電源を切った状態での作動確認までリストに挙げている。

国立成育医療研究センターが作成した停電対策マニュアル

 ◇停電回復まで独自電源確保

 自宅での機器の作動にとどまらず、停電時に自宅近くで電気を供給してもらえる場所があるかどうかや、自宅から避難する際の方法や避難先を確認。また、患者や機材の移動、作動確認を含めた現実に即した訓練をしておくよう、呼び掛けている。

 具体的な停電対策は、回復するまで独立電源を確保することが中心になっている。

 マニュアルでは、医療機器ごとの専用外部バッテリーを用意し、保証期間を確認しておくことが「STEP1」。「STEP2」は一般用の蓄電池を購入またはリースで自宅に準備し、医療機器が作動することを確認する。この際、蓄電池の性能や自動車から充電可能かどうかを調べた上で、充電時間や保障期間に注意して選ぶようアドバイスしている。

 長時間に及ぶ停電時には、自動車から電力を得るように「STEP3」でアドバイスしている。自動車は車種、電気自動車やハイブリッドなどで電力供給のシステムは異なる。このため自宅にある車両に応じて給電方法を確認するよう、細かく分類して指示している。さらに、自動車から直接医療機器に電力を供給する場合は、患者が車内から離れられなくなることに留意するよう、強調している。

 一方で、避難所などで使われるガソリンやガスボンベを燃料とする発電機はメンテナンスや燃料の確保が難しく、換気が不十分な屋内で使用した際のCO中毒の危険もある点などが強調されている。逆に、電気を使用しない手動や足踏み式の痰(たん)などの吸引器、酸素吸入に使う酸素ボンベなども紹介されているが、長期間の使用や備蓄が難しいなどの問題点も紹介されている。

国立成育医療研究センターの中村知夫在宅医療支援室長

 ◇ボンベなどの備蓄が課題

 マニュアルの編集を担当した同センター在宅医療支援室の中村知夫室長は、「大規模災害の際には『自助』、地域社会での『共助』、自治体など公的機関による『公助』が状況に応じて必要とされているが、現状では最初の自助の段階でできることが極めて限られている。

 さらに、避難所での医療機器を使いながらの避難、避難所での電源確保や酸素ボンベなどの機材の備蓄、供給体制の確保など、問題も山積みになっている」と指摘する。

 人工呼吸器や自動吸痰機は、成育医療研究センターが担当する病児だけでなく、難病に苦しむ成人や高齢者のために広く在宅医療で使われている。18年の西日本豪雨や19年9月の一連の台風による風水害での教訓で、災害が生じる前に避難する余裕があった事例も報告されている。

 中村室長は「事前に適切に準備し、地域や自治体などに支援の必要を知っていてもらえれば、事前に支援体制を構築して早期の避難も可能になる。このことに気付き、関係者が声を上げていく必要がある。このマニュアルがそういうきっかけになればうれしい」と期待している。(喜多壮太郎・鈴木豊)

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