2024/11/06 05:00
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私がまだ小学校低学年だった頃のことです。夜中3時ごろ、突然両親に起こされ、車で遠く離れた病院に連れて行かれました。そこで目にしたのは、病室のベッドに横たわり、人工呼吸器につながれた祖母の姿でした。部屋に漂う消毒液の臭い、無機質な白い壁、人工呼吸器が定期的に発する機械音。そして、いつもは笑顔で話す親戚たちの暗い表情。私は今も、あの時の光景をありありと思い出すことができます。
祖母が倒れた原因。それは、餅を喉に詰まらせたことによる、窒息でした。そして私は医師になり、年末年始に数え切れないほどの「餅による窒息事故」を診療することになります。
めでたいはずのお正月に、こんな状況にならないように
◇年末年始に多い事故
餅による窒息事故は、毎年のように起こっています。東京消防庁管内だけでも、2013年から17年までの5年間に、餅をのどに詰まらせて521人が救急搬送されています。特に多いのは65歳以上の高齢者で、約9割を占めます。
発生件数の半数以上が12月と1月。年末年始に餅を食べる人が急増するからです。つまり、「誰が」「いつ」注意すべきであるかが、きわめて明白な事故であると言えます。
よって毎年のように、救急医療に携わる人たちが、餅による窒息事故に気をつけるべきだと啓発を繰り返しています。しかし、残念ながら同様の事故が依然として起こり続けています。
◇事故を防ぐために
東京消防庁は餅による事故を防ぐポイントとして、以下の4点を挙げています。
(1)餅は小さく切って食べやすい大きさにする
(2)ゆっくりかんでから飲み込む
(3)乳幼児や高齢者と一緒に食事をする時は、慎重に様子を見る
(4)いざという時に備え、応急処置の方法を知っておく
私はこの4点に加え、もう一点、重要なポイントを挙げたいと考えます。それは、「リスクの高い高齢者は餅を食べない」です。餅を食べさえしなければ、喉に詰まらせる心配はありません。
「正月に家族みんなで餅を食べるのが楽しみなのに、それを奪うなんて、なんと冷酷な医者だ」と思ったでしょうか。
◇「べたつき」少ない代替品
餅が危険なのは、その強い「べたつき」のせいです。餅がのどに貼り付いてしまい、空気の通り道をふさいでしまうのです。つまり、「べたつき」の少ない代替品を使うことは、一つの大きな解決策になります。
代替餅として介護情報サイト「かいごGarden」は、ジャガイモ餅、大根を使った餅、上新粉と豆腐をつかった白玉を挙げています。
特に、うるち米が原料である上新粉は、白玉粉と比べると粘り気が少ないため、歯切れのよい団子になります。食感も餅に近いため、窒息リスクを最小限にしながら、食べる楽しみもできる限り奪わない方法ではないかと思います。
もちろん、それでも窒息を完全にゼロにすることは困難でしょう。目の前で家族が窒息しかけた時、周囲の人は何をすればいいのでしょうか。
◇窒息時の対処法
まず大きな声で助けを呼び、119番通報するとともに可能であれば自動体外式除細動器(AED)の搬送を身近な人に依頼します。緊急事態に備えて近所でAEDが設置してある施設などを確認しておくと安心です。
本人にはできる限りせきをさせ、せきもできない時は「背部叩打法」を行います。片手で下あごを支えてあごを反らせ、気道を直線的にした状態で、もう片方の手のひらの付け根で、背中を強くたたきます。たたく位置は、両方の肩甲骨の間です。これを異物が取れるまで繰り返します。
もし呼びかけに反応がなくなった時は、すぐに心肺蘇生を開始します。心臓マッサージ(胸骨圧迫)を行いつつ(可能であれば人工呼吸を行いながら)、AEDを装着します。
AEDは、電気ショックが必要かどうかを自動で判別し、音声で指示をくれる器械です。電極パッドを胸に貼りさえすれば(貼り方も分かりやすく記載されています)、その使い方に専門知識は必要ありません。
もちろん、気が動転してなかなか思うように体が動かないかもしれませんが、少しでも知識を持っておくことが、いざという時の助けになるはずです。(医師・山本健人)
(参考)
東京消防庁「年末・年始の救急事故をなくそう」
かいごGarden「喉に詰まりにくい代替餅料理」
(2019/12/11 07:00)
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