治療・予防

遺伝子異常が関連―家族性大腸腺腫症 
大腸がん発症予防が必須

 大腸がんの中に、先天的な遺伝子の異常によって引き起こされる家族性大腸腺腫症がある。兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)下部消化管外科の冨田尚裕主任教授は「ほぼすべての患者が大腸がんを発症するため、早期にがんの予防を開始することが必要です」と警告する。 

大腸内視鏡検査で偶然に発見されることが多い

 ▽放置で全員大腸がん

 家族性大腸腺腫症とは、先天的な遺伝子異常が原因となって大腸に大量の腺腫が発生する病気だ。人は両親から一つずつAPC遺伝子と呼ばれるがん抑制遺伝子を受け取る。家族性大腸腺腫症の原因となるのは、両親のどちらかから受け継いだAPC遺伝子の先天的な異常だ。それに加えて、もう一つのAPC遺伝子に後天的に異常が発生すると、腺腫(ポリープ)が生じると考えられている。

 家族性大腸腺腫症では、大腸全体に大量の腺腫ができ、時に1万個にも及ぶ。腺腫は20代ごろからでき始めるが、自覚症状はない。放置すると患者のほぼ100%が大腸がんを発症し、胃や十二指腸など大腸以外のがんを発症するリスクも高まる。

 家族性大腸腺腫症は、約1万7000人に1人の割合で起こると推定され、大腸内視鏡検査を行った際に偶然見つかることが多い。「大腸の正常な粘膜が見えないほど、腺腫で覆い尽くされていることもあります。まれな病気ですが、ほかの遺伝性大腸疾患に比べると病変がはっきりしているので、発見しやすいのです」と冨田主任教授。

 ▽大腸全摘、内視鏡下も

 通常、大腸内に腺腫が100個以上あると、家族性大腸腺腫症と診断される。100個未満なら、APC遺伝子の異常を調べる遺伝学的検査や、家族性大腸腺腫症大腸がんの家族歴と合わせて判断される。

 家族性大腸腺腫症と診断がつけば、原則として大腸がんの発症前に、予防のため大腸全摘術や大腸の一部を残す亜全摘術などの手術を行う。ただし、腺腫数の少ないタイプや手術によって妊娠する確率が低下する可能性がある女性の場合などは、すぐには手術せず、定期的に内視鏡下での徹底的なポリープ摘除を行いながら経過観察する試みもある。

 大腸全摘術後も、わずかに残った大腸や小腸の一部(回腸)などにがんが発生する可能性があるため、定期的な検査が必要になる。冨田主任教授は「患者さんの親や子ども、兄弟姉妹などが家族性大腸腺腫症の可能性もあるので、大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします」と話している。 (メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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