がんの予防 家庭の医学

 がんがどのようにして発生するのかはまだ解明されていません。そのため、これといったがんの予防法はありませんが、経験的にいくつかのことがいわれています。

■発がん物質
 たばこをすう人は肺がんになりやすいとか、染料に使われる2-ナフチルアミンやベンジジンという化学物質によって膀胱(ぼうこう)がんが発生するとかいわれています。これらの発がん性物質を極力避けることによって、がんは予防できます。
 また、ある年齢に達するとがん発生率が上昇しますが、これには老化による免疫(めんえき)力の低下が関係していると考えられています。

■がん予防のために
 以下に自分自身でおこなえるがん予防法を示します。
□発がん物質を避ける
 発がん性があるといわれるものをあげてみます。
 食物では、熱い食物や塩辛い食物が食道がん胃がんの発生率を高める危険因子といわれていますし、焦げたものには発がん性のあることが実験で証明されています。また、アルコール(特に強いアルコール)も食道がんや肝がんの危険因子とされていますし、ほかに肝がんを起こす可能性のあるものとしてはナッツに寄生するカビの代謝産物であるアフラトキシンなどもあげられています。コーヒーの飲みすぎは膵(すい)がんの危険因子とされていますし、ワラビやゼンマイには膀胱がんを発生させやすい物質が含まれているといわれています。
 ただし、これらは毎日同じものを食べ続けているとがんになる可能性があるという程度であって、たまに食べる程度では問題ありません。
 逆に緑茶や緑黄色野菜、海藻にはがん発生を抑えるはたらきがあるともいわれています。異論もありますが、ビタミンA、C、Eはがん発生の抑制因子となるとされています。
 たとえば、ビタミンCを多く含んでいる食物を食べている人は、上部消化管のがんになりにくいという報告があります。また同様に牛乳を多く飲む人は胃がんの発生率が低いともいわれています。
 便秘は大腸がんの危険因子といわれていますが、便秘を防ぐ意味で繊維質の多い食物や牛乳がすすめられます。
 これらを総合して考えると、①偏食をしないでバランスよく、②特に自然で新鮮な野菜を多く食べ、③ビタミンを十分にとり、④繊維質のものをとって便秘を防ぐことが、食事でできるがんの予防といえます。
 たばこは肺がん、食道がんの危険因子とされています。また、石油精製などによる空気汚染も肺がんや食道がんを発生させやすくすると考えられていますが、実際に大都市のほうが地方より肺がんの死亡率が高いといわれています。
 女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、長期間高値が続くと乳がん子宮体がんにかかりやすくなるといわれています。
 実際に月経不順の人や不妊の人には子宮体がんや乳がんが多いことが確認されています。また、初交年齢の低い人や複数の人と性交渉をもつ人は子宮頸(けい)がんにかかりやすいとされています。子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウイルスの感染が原因であると考えられています。

□免疫力を高める
 ひとくちに免疫力を高めるといいますが、はっきりとどのような方法があるとはわかっていません。
 ストレスは免疫力を低下させると考えられています。配偶者(精神的よりどころとなっている人)を失ってまもない人はがんにかかりやすいとか、対人関係に問題のある人や感情的はけぐちがなく感情を抑圧する傾向の強い人にがん患者が多いなどの報告がありますし、逆にトラブルを他人のせいだと考えることのできる人にはがんが少ないともいわれます。
 これらのことは、ストレスが免疫力を低下させた結果、がんにかかりやすくなったともいえます。つまり心身ともに過労を避け、対人関係をよくし、ストレスをじょうずにコントロールすることによって、ストレスをため込まないようにすることが、がんの予防に重要といえます。

□がん予防12カ条
 がん研究振興財団は、以下のような「がんを防ぐための新12か条」を2011年に公開しています。

●がんを防ぐための新12か条
 1条 たばこはすわない
 2条 他人のたばこの煙をできるだけ避ける
 3条 お酒はほどほどに
 4条 バランスのとれた食生活を
 5条 塩辛い食品は控えめに
 6条 野菜や果物は不足にならないように
 7条 適度に運動
 8条 適切な体重維持
 9条 ウイルスや細菌の感染予防と治療
 10条 定期的ながん検診を
 11条 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
 12条 正しいがん情報でがんを知ることから
(公益財団法人がん研究振興財団)


「なんだこんなことか」と感じる人も多いかと思いますが、このような、いわゆるからだによいことを続けることががんの予防につながるものなのです。
 これらがんの予防をおこないつつ、進行がんを防ぐ意味から早期発見に力を入れることが、現時点ではもっとも確実な対策と思われます。

(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)