治療・予防

フグによる食中毒と対処法 
家庭での素人調理は危険

 フグ料理は日本の食文化を代表するものだが、肝臓や卵巣に毒が高濃度に含まれていることはよく知られている。取り扱いを間違えると命を失うことになりかねない。フグ中毒とその対処法について、日本大学生物資源科学部(神奈川県藤沢市)糸井史朗准教授に聞いた。 

 ▽毒性は青酸カリの800倍

 フグ毒の主成分はテトロドトキシンという強力な神経毒。成人における致死量はわずか1~2ミリグラムで、青酸カリの800倍を超える毒性がある。一般的な加熱調理では毒素はほとんど分解されない。

 フグの中毒例は年間約30件に上り、ほとんどは素人が釣ったフグを家庭で調理して食べたことによるものだという。

 テトロドトキシンは、筋肉の末梢(まっしょう)神経や中枢神経をまひさせる作用がある。中毒症状は食後20分から5時間程度の短時間に表れる。最初は唇や舌端の軽いしびれから始まり、症状が進むと嘔吐(おうと)や運動まひが生じる。重症例では呼吸困難で窒息死する場合もある。

 テトロドトキシンには神経細胞や筋肉細胞を傷つける作用はない。早期に排出されて体内には蓄積されないため、回復すれば後遺症は残らない。そのため、排出されるまでの時間をいかに乗り切るかがポイントとなる。糸井准教授は「テトロドトキシンの排出にかかる時間は8時間と言われます。たとえ致死量を摂取した場合でも、早期に治療を開始し、人工呼吸により呼吸が維持できれば救命の可能性は高まります」と話す。

 ▽個体差大きいフグの毒量

 フグが蓄えている猛毒は、自ら作り出しているものではない。解明されていない点は多いが、餌となる海洋生物や他のフグの有毒卵を食べることで毒をため込むと考えられている。「主に雄は肝臓、雌は卵巣に毒をためています。ふ化したフグの表皮には母親からごく微量の毒が譲り渡され、外敵から身を守っています」と糸井准教授。

 そのため、完全養殖のフグの無毒化が可能である一方、天然フグの持つ毒量は個体、季節、海域によって差がある。皮や精巣に毒を多く含むものもあり、フグの種類によって有毒部位が異なる。過去にフグの肝臓を少量食べて中毒症状が出現しなくても、別のフグで中毒症状を起こす可能性があるのはこのためだ。

 糸井准教授は「天然でも養殖でも、フグ調理師免許を持つ人が調理した食用可能な部位の料理を食べるようにしましょう」とアドバイスする。 (メディカルトリビューン=時事)

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