足の悩み、一挙解決

足のトラブル解決に不可欠なインソール(足のクリニック表参道 義肢装具士・向 将平さん) 【PART2】第9回

 【桑原靖院長】足のさまざまなトラブルの主な原因は、足の骨格構造の崩れであることを、これまでの連載で繰り返し解説してきました。巻き爪や「たこ」「うおのめ」なども、足の構造を適正な位置に整えることをしなければ根本的な解決にはなりません。外反母趾(ぼし)や強剛母趾で手術を受けても、その後、何もしなければ再発する可能性が高いのです。

足のトラブル防止に役立つインソール【時事通信社】

 足の骨格を正しい状態に矯正するために不可欠なのが、靴の中に入れて使うインソールです。インソールで足の構造を立て直しておくことで、さまざまな足のトラブルを防ぐのはもちろん、初期の症状を緩和することも可能です。そこで、今回は治療用に使うインソール(足底装具)がどのように作られるのかをお伝えします。

 インソールというと、クッション性のある柔らかい素材のものをイメージする人が多いのではないでしょうか。市販のインソールは、その人の足に合わせて作ったものではないため、柔かい素材で、ある程度どんな足にも適合するような作りになっています。

 これに対して、足のクリニックで作成するオーダーメードの治療用インソールは、繊維強化プラスチック(FRP)やカーボン製の、硬いけれども「しなる」素材です。補正する力も強い反面、もし足にぴったり合わなければ、どこかが当たって、痛くて使えなくなってしまいます。このため、患者さんの足の状態を詳しく調べ、慎重に作製作業を進めていく必要があるのです。インソール作製を担当するのは、足専門の義肢装具士です。

 今回は、足のクリニックの義肢装具士・向将平さんにインソールの製作過程を語ってもらいます。

 ◇バランスをみる

 【向将平さん】この日は、強剛母趾の手術を受けた患者さんのインソール計測日でした。

 インソールを作成する際に、最初にチェックするのが、患者さんが自然に立ったときのバランスです。強剛母趾の手術を受けた患者さんは、手術で親指の付け根の骨はきれいに並び、歩くときの踏み返しもできるようになりましたが、足の補正をしておかないと、強剛母趾が再発するリスクが高くなります。

 楽に自然に立った状態で足を観察すると、扁平(へんぺい)足で足が内側に倒れ、歩くたびに骨がねじれて関節がずれていくことがわかりました。ずれた状態で歩き続けると、結果的に足が変形していきます。

 このため、インソールで足全体のゆがみを補整し、足に対する負担を軽減させることにしました。

インソール作成のための足の計測の様子(「足のクリニック表参道」提供)

 ◇動きを検査する

 次にもともとの足のタイプと、関節の可動域、動きの質をチェックします。生まれつき持っている足の骨格は人それぞれ異なり、細かくわけると9タイプがあります。後足部(足の後ろ半分)、前足部(前半分)それぞれに、内側に向いている内反、中間、外側を向いている外反があり、これらの組み合わせから全部で九つに分類できるのです。この患者さんは、後足部は中間、前足部は内反でした。

 その次は、親指の付け根のMP関節の屈曲、伸展、柔軟性をチェックします。また、それぞれの指ごとに、骨の配列や動きの質を、リスフラン関節・ショパール関節・距骨下関節といった各関節の可動域や動きをチェックします。左右の差もあるので、その違いも把握します。

 この患者さんは日ごろから運動をしているため、筋力は十分にありましたが、柔軟性が少し足りません。筋肉が硬すぎると足への負担が増えるので、ストレッチなどを行い解消してもらう必要があります。足関節を背屈させる(足首を手前に近づける)ときに、適度に動けば、足の他の部分に余計な負担が掛からずにスムーズに歩けるのですが、硬いと他の部分が補う代償行動を取るため負担が増えてしまいます。ひざを伸ばした状態で、足関節の背屈可動域が10度以上あることが理想です。

 10度の可動域は、正常な歩行に必要とされる基準です。可動域が不十分だと、歩くときに足首をひねるなど、どこかで代償して使おうとするので、足への負担が増してしまいます。

 重要なのは、動いたときの足の崩れ方です。座っているときには、ある程度、足の良い位置が取れても、立ったときに、足裏のアーチがつぶれてしまう場合、その差がどれだけあるかの評価が必要です。座っているときは問題がないように見えても、立つと足裏のアーチがつぶれるという場合は、その変化率が大きいほど足にかかる負担も増大します。そこで、インソールを使って、その人が正しい位置で立てるよう補正します。

足に荷重をかけた状態で行う型どりの様子(「足のクリニック表参道」提供)

 ◇2種類の型取り

 型取りは二つの方法を併用して行います。足にぴったり合ったインソールを作るために、型取りには念を入れています。

 まず、発泡素材の上に足を置き、自力ではなく、力を抜いた状態で、装具士が足を下に押して沈めていく方法です。

 次に、ギプスを使った型取りですが、体重をかけずに自然な状態で型を取ります。荷重と非荷重の2種類の型を取ることで、精度の高い効果的なインソールを作製することが可能になります。

 クリニックでは、インソールの効果を最大限に生かすため、硬い素材で矯正力の高いものを作りますが、この型取りをいかに正確に行うかが、重要です。

 また最近では患者さんの足の形状を数値化し、これまでの統計データと比較ができるため、どんな人にどんなインソールが合うのか、さらに詳しく分かるようになりました。インソールの製作方法や理論も日々進化しています。

完成したインソール(「足のクリニック表参道」提供)

 ◇ライフスタイルに合わせて選ぶ

 インソールの形は、足裏全体をカバーする大きいタイプと、かかとに合わせて使うハーフサイズがあります。スニーカーなど中敷きが外せる靴を履く場合は、大きい物でもよいのですが、革靴は中敷きが外せないものが多いので、きつくなってしまうことがあります。中敷きが外せない、いろいろな靴に合わせたい場合は、その都度入れ替えて使うハーフサイズのほうが良いでしょう。

 表面に革を張ったり、かかとにクッションを付けたりして、自分に合ったものにカスタマイズすることができます。

 外反母趾も強剛母趾も「母趾」自体がそもそもの原因ではなく、足のアーチ構造が崩れて生じた二次的なものであるため、本当の意味での完治はインソール(足底装具)でそれを元の状態に戻しておくまでは達成されません。

 医師の処方の下で義肢装具士が作製するインソール(足底装具)は、外反母趾や強剛母趾などの疾患がある場合に限り健康保険制度が適応されることがあり、この償還払い制度を利用した最終的な自己負担額は1.5万円程度となります。(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)

向将平氏


 向 将平(むかい しょうへい)氏 
 日本フットケアサービス株式会社。米国ペドーシスト(足装具士)に師事し、日本における足専門の義肢装具士として年間2000足以上のインソールを作製している。

   【足のクリニック表参道 桑原靖院長プロフィル】  





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