2024/12/04 05:00
テレビとSNSはどちらを信用すべきか
医療情報収集のヒント
例えば、あなたが重いがんにかかり、抗がん剤治療が必要だと医師から告げられたとします。
きっとあなたは、そのがんについて、いろいろと情報収集をしたいと思うでしょう。
自分ががんだと告げられれば、がんについていろいろと情報収集したいと思うのは当然です。しかし、ネット上には怪しい情報があふれていることを忘れないでほしいのです(写真は本文と直接関係ありません)=2016年3月撮影、東京【EPA時事】
インターネットで検索したり、がん治療の経験を持つ友達に相談したり、SNSでがん患者さんの情報発信を探したり。さまざまな方法で、がん治療について知ろうとするはずです。
◇適切な治療機会を失う
一方、こうした情報収集に危険が潜むことを、がん診療に携わる私たちは知っています。
なぜなら、こうした行動の末に怪しげな情報を得て、それを信用した結果、適切な治療機会を失ってしまう人たちを大勢見てきたからです。
今や、日本人の4人に1人はがんで亡くなる時代と言われます。
2021年度の統計では、がんでの死亡者は全死亡者の26.5%を占め、死因順位の圧倒的1位です。(*)
こうした状況で、がんに関する情報が世の中にあふれるのは当然です。情報に対して膨大なニーズがあるのですから、当たり前のことでしょう。
患者さんを相手に、お金もうけをしたい、と考える人もたくさんいます。
科学的根拠のない高額の食品やサプリメント、怪しげな「治療法」を売る人もいます。
お金もうけをしたい人が、こうした巨大なマーケットを見逃すはずがないからです。
◇信用できる情報とは
では、一体どの情報を信用すればいいのでしょうか。
科学的に、きちんと根拠のある治療に出会うには、どうすればいいのでしょうか。
医療の世界では、科学的根拠のことを「エビデンス」と呼びます。
どれだけ確かなエビデンスがあるのか。それによって、治療の妥当性は決まります。
患者さんには、限られた時間と費用の中で、最も確かなエビデンスのある治療を受けていただきたい。
これが、がん診療に携わる私たちの願いです。
そもそも、がん治療というのは高額です。
薬の開発費は莫大(ばくだい)ですし、その効果を証明するための臨床試験が行われ、とてつもないコストが支払われて、ようやく患者さんが使えるようになるからです。
◇保険が利くかどうか
しかし、幸いにしてわが国には、国民皆保険制度という素晴らしい仕組みがあります。
みんなが少しずつお金を出し合って、病気で多額の費用を要する人をサポートしよう、という、世界に誇るセーフティーネットです。
いかに高額な治療であっても、「保険が利く」以上、その大部分は健康保険によって賄われます。窓口で支払うお金は1~3割、つまり7~9割引きです。
さらに、高額療養費制度によって、後に所得に応じてキャッシュバックがあります。
こんなにも割引率の高い商品を、他に見つけることはできません。
しかし、当然ながら、あらゆる治療に保険が利くわけではありません。
大切な国民のお金を投入する以上、「保険の利く治療」には確かなエビデンスが必要だからです。つまり、わが国において、確かなエビデンスのある治療とは「保険が利く治療」のことです。
言い換えれば、「がん治療」というのは、「十分なエビデンスがあるために保険が利く治療」と、「エビデンスがまだ不十分なために保険が利かない治療」に分けることができる、というわけです。
◇「いい治療ほど安い」原則
医療以外の分野では、「多くのコストを支払えばいいサービスが得られる」が常識です。
たくさんのお金を払えば、いいレストランで食事ができて、いい車に乗って、いい服を着て、いいホテルに泊まれます。
一方、医療において、こうした原則は通用しません。「いい治療ほど安い」という原則があるからです。
このように、十分なエビデンスがある治療のことを「標準治療」と呼びます。
「標準」とは、「スタンダード」のこと。世界的にスタンダードと言える、現時点で最も優れた治療のことです。
がんの患者さんに伝えたいことは、まず標準治療を選ぶこと。情報に翻弄(ほんろう)される前に、「そのがんにおける標準治療とは何か」をがんの専門家に尋ねることです。
がん患者さんが、あふれる情報に翻弄されることなく、標準治療を選べることをいつも願っています。
(*)出典=厚生労働省資料
(2022/07/06 05:00)
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