教えて!けいゆう先生

オストメイトマークとは何か
~意外に知らない人工肛門の実態~ 外科医・山本 健人

 いつも視界に入っているにもかかわらず、意識していないために、その存在に気づけない。日常生活で、そうした物事はたくさんあると思います。

 私がここで一つ、例に挙げたいのが、「オストメイトマーク」です。

オストメイトマーク

オストメイトマーク

 オストメイトマークは、駅や公園などの公共施設、ショッピングモール、映画館などの多機能トイレによく描かれています。ところが、車椅子のマークや、おむつ交換台のマークはよく知られているのに、オストメイトマークは意外に知られていません。

 よく隣に並んでいるのにもかかわらず、です。

 ◇オストメイトとは

 「オストメイト」とは、ストーマ、すなわち、人工肛門や人工ぼうこうを持つ人のことです。

 オストメイトマークは、オストメイトの人が排せつ物を処理したり、装具や腹部を洗浄したりするための設備が整った多機能トイレに掲示されています。

多機能トイレの表示板【時事通信社】

多機能トイレの表示板【時事通信社】

 やむを得ず多機能トイレを使ったことがある人なら、大きな流し台を見た記憶があるかもしれません。それが、オストメイト対応トイレです。

 オストメイトの人は、日本に20万人以上いるとも言われます(編注)。しかし、服を着ていると見た目には分かりませんし、その実態はあまり知られていないのが現実です。

 実際、「人工肛門」と聞いて、人工関節やペースメーカーのような器具を思い浮かべる人すらいます。

 ◇つらさが周囲から見えにくい

 人工肛門は、お腹の壁に穴を開け、腸の一部を体外に出し、腸を外界と直接つながった状態にしたものです。肛門とは別に便の出口を設けるもので、器具を埋め込むわけではありません。

 便意はないため、表面に装着したパウチに便が自然にたまる仕組みです。従って、これを定期的にトイレに捨てに行ったり、表面を洗浄したりする必要があります。

多機能トイレに設置された流し台(筆者撮影)【時事通信社】

多機能トイレに設置された流し台(筆者撮影)【時事通信社】

 大腸や直腸のがんなど、さまざまな病気で人工肛門が必要になります。

 一方、人工ぼうこうは、便ではなく尿の通り道です。やはり、ぼうこうや尿管などの病気で、お腹の壁を貫いて尿の出口を新しく設けたものです。やはり器具を埋め込むわけではありません。

 もちろん、装具は防臭加工されていて、臭いはありませんし、漏れもありません。

 ストーマに限ったことではありませんが、医療が進歩し、病気の人にとって、日常生活の制限が軽くなるにつれ、皮肉にも周囲から病気であることのつらさが見えにくくなる、という問題があります。

 以前、多機能トイレの不適切な使用がニュースになったこともありますが、多機能トイレがなくては困る人の実情を知らない限り、その行為の不適切性は正確に認識しづらいかと思います。

 まずは、街中でオストメイトマークを探してみてほしいと思います。

 意外にも、いつもの通勤経路や生活圏内で容易に見つかるはずです。

 (編注)障害者情報ネットワーク ノーマネット「都道府県別オストメイト(身体障害者手帳取得者)数」より

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。



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