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虫歯の原因となる代表的な細菌に、口内に常在し、虫歯菌と呼ばれる「ミュータンス菌」がある。北海道大学大学院歯学研究院(札幌市)血管生物分子病理学の樋田京子教授らの研究では、このミュータンス菌ががんの転移を促進することが検証された。
血中に循環する虫歯菌
◇全身の臓器に炎症
虫歯菌は、口の中に残った糖分をえさとして増え、歯の表面に付着し、菌の塊である歯こう(プラーク)を形成する。歯こう内の虫歯菌は酸を作り出し、歯を溶かす。やがて穴が開き、虫歯ができてしまう。
虫歯菌が歯の根元の神経まで達すると、ひどい痛みや腫れをもたらすが、虫歯菌が働く悪さはそれだけではない。「ひどい虫歯や歯周炎(歯茎の重い炎症)があると、虫歯菌が虫歯から血管内に入り込んで全身を巡り、さまざまな臓器に炎症を起こします」と樋田教授は説明する。
◇肺への転移が増加
一方、がんが転移する仕組みはいくつかある。その一つが、がん細胞が最初に発生した場所から血管内に入り込み、血液の流れに乗って別の臓器に移動する「血行性転移」だ。樋田教授らはこれまでの研究で、血管の炎症ががんの血行性転移を促すことを明らかにしている。そこで今回、ミュータンス菌が血管の炎症やがんの血行性転移に及ぼす影響を検討した。
その結果、「血管内に侵入したミュータンス菌は、血管内壁を覆う血管内皮細胞で炎症を誘発し、血管内を流れるがん細胞を血管内皮に接着させやすくすることが分かりました」。
さらに、ミュータンス菌による血管炎症で、血管の透過性(通常はタンパク質などの大きな物質は血管壁を通過できないが、がん組織の血管では通過させてしまう)を高め、血管壁に接着したがん細胞が臓器側に通過しやすくなることも分かった。
また、マウスのがん転移モデルを使った実験で、「ミュータンス菌が肺の血管で炎症性変化をもたらし、肺へ転移するがん細胞を増やす現象が見られました」。
樋田教授は「がん患者の口腔(こうくう)ケアは誤嚥(ごえん)性肺炎の予防だけでなく、がん転移の抑制にも有効である可能性があります。毎食後の歯磨きや歯科受診などに積極的に取り組んでほしい」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2023/05/22 05:00)
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