話題 2024/12/19 05:00
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定期健康診断や人間ドックは、重い病の兆候を見つけたりすることに役立つ。一方で、高齢者にとっては日々の健康状態のチェックが極めて大事だという。しかし、自分で毎日、体温や血圧などを測ることはかなりの負担になる。そこで、家電の使用データを測ることで健康維持につなげようという取り組みが始まっている。
病気の予防には、1次予防(生活習慣改善、健康づくり)、2次予防(重症化の予防)、3次予防(再発防止)―の3段階がある。1次予防が最も大事で、発病には至らないが、検査で異常が見つかる「未病」の状態における対応が求められている。
家庭の分電盤に設置される電力センサー(デモ用)
◇自分で測るのは面倒
日本では体温計や血圧計はもちろん、最近ではスマートウオッチなど体のデータを取る機器は簡単に手に入る。しかし、毎日測るのは面倒だと感じる人も少なくない。日本医療機器工業会の調査(2020年)によると、60歳以上の人の家庭用血圧計の所有率は90%を超えているが、高血圧症の患者を除いてはあまり利用されていないとされる。
◇北海道沼田町で実証実験
奈良県立医科大学発のベンチャー企業「MBTリンク」は、心拍数や歩数を測るスマートウオッチや温度や湿度、気圧などを測る環境センサーなど情報通信技術(ICT)を用いて高齢者ら地域住民の健康を見守るシステムの実証実験を2019年から開始した。その舞台となったのは、北海道沼田町だ。
沼田町の風景(同町観光協会提供)
同町は豪雪地帯で、人口は約2900人。道内でも珍しい野生のホタルが鑑賞できるなど自然に恵まれている。町民は健康意識が高いが、日常的にデータを取ることは難しかったという。そこで電力データにたどり着き、20年から電力データを中心にしたサービスを提供している企業「エナジーゲートウェイ」が実証実験に参加した。
電力データによって、住民の日常の行動が把握できる。起床時間や睡眠時間、洗濯機や掃除機を使う時間が分かる。例えば、夜中に電子レンジを使っていれば、食事が遅くなったことが分かる。
◇ライフスタイルを評価
実証実験では、消費した電力データを基に生活、食事、活動などのグループに分け、ライフスタイルをスコアで評価した。生活スコアはエアコンやテレビ、待機電力など、食事スコアは電子レンジや冷蔵庫、炊飯器など、活動スコアは洗濯機や掃除機などを1分単位で計測した。
MBTリンクの梅田智宏社長は「その人の意思に頼らないでデータを取る仕組みを提供できないか模索してきた」と語る。
「健診や人間ドックは検査の精度が高い。だが、それは年に1回くらいで『イベント型』だ」
1年のうちで検査を受けない日ははるかに多い。定期健診や人間ドックの検査に比べて精度は落ちるにしても、日々の状態を知ることが健康維持につながる。
左からエナジーゲートウェイの酒井社長、MBTリンクの梅田社長、横山町長
◇小さな町の大きな挑戦
沼田町の横山茂町長は「持ち家率が高く、高齢者が安心して暮らせるまちづくりが急務となっている」と説明。その上で「この実験は世界初だと聞く。人生100年時代と言われる中で、高齢者の病気の予防や医療費削減につながるシステムを全国の自治体に普及できないか。『小さなまちの大きな挑戦』を掲げ、取り組んでいきたい」と意欲を示す。
◇生活改善、安心感
実証実験参加者のアンケートからは、意識の変化がうかがえた。
「気付かなかった季節によるライフスタイルの変化を知ることができ、生活改善点が分かった」
「食事や活動、生活スコアを知り、スコアの低い行動で規則正しい行動をより心掛けるようになった」
「家族にも自分の状態をリアルタイムで知ってもらえ、安心して生活できる。特に冬は家族ですらなかなか来ることができない地域であり、データの活用は便利でありがたい」
一方、遠方に住んでいる家族からはこんな声が寄せられた。
「高齢の親のライフスタイルを確認することができて安心する」
「認知症の進行を心配しており、大変参考になる。対応策も練りやすい」
◇生活を映す鏡
家庭の分電盤にセンサーを取り付け、エアコンやテレビ、炊飯器などに使われた電力を把握できる。エナジーゲートウェイの酒井正充社長は「電気は生活を映す鏡だと考えている。普段の生活の中で『健診』が当たり前にできるサービスを実現したい」と強調。「こうした家電はメーカーを問わないし、センサーは30分程度で設置できる」と説明する。(鈴木豊)
(2023/06/21 05:00)
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