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アルバイト先の飲食店で、いつまでたっても常連客の顔が覚えられない。学習塾で教えているが、1学期が終わる頃でも子どもたちの顔を識別できない―。そのような経験があれば、「相貌失認(そうぼうしつにん)」という脳の障害かもしれない。上本町わたなべクリニック(大阪市)の渡辺章範院長に聞いた。
人の顔が覚えられない
◇脳の一部に障害
脳は前後左右といった部位ごとに、言語、視覚、運動などの機能を分担している。誰かの顔を見たときも、目、鼻、口などに関する視覚情報を脳の複数の部位が協調して処理し、記憶とも照らし合わせて、「あの人だ」「初対面だ」と認識する。
こうした機能を担う脳領域の一部が、生まれつき働きが低下していたり、事故やけが、脳卒中などで損傷したりすると、知っている人の顔を見ても誰だか認識できなくなる。「例えば、相手の顔がぼんやりとしか見えていない。のっぺりとした顔しか思い出せない。大勢の中から知り合いを探すことができない」。生まれつきなら「先天性相貌失認」、事故などが原因の場合は「後天性相貌失認」と呼ばれる。
海外の研究によると、先天性は人口の2~2.5%程度で発生する。「日本にも250万~300万人いると推定されますが、相貌失認と気付いていない人が多いと考えられます」
後天性は極めてまれだが、米国では20代女性が新型コロナウイルス感染後に発症したと、3月に報告されている。
◇顔以外の情報で認識
相貌失認の人は、目や鼻、口といった相手の顔の特徴とは別の情報(髪形、体形、声、話し方、しぐさ、話の内容など)を統合し、相手を認識する。家族のように繰り返し会う人は認識できるなど、症状に個人差がある。
症状がある場合、「『相手の顔が覚えられなくて仕事に支障がある』『映画の登場人物が識別できず、内容が分かりにくい』といったことを自分自身で認識することが大切です。その上で、顔以外の情報を活用するトレーニングをするとよいでしょう」と渡辺院長は助言する。後天性については、元の病気の治療、例えば脳卒中のリハビリテーションによって改善する可能性があるという。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2023/10/25 05:00)
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