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子どもの歯を美しく見せたいと思い、歯列矯正に頼る親は多い。ある意味では当然で、その歴史は古い。元米大統領ジョン・F・ケネディの母が子どもたちに歯の「矯正歯科治療」をさせたというエピソードは有名だ。最近、「アライナー型矯正装置」という手法が登場し期待を集めているが、慎重論を唱える専門家も多い。
歯に装着するアライナー型矯正装置=日本臨床矯正歯科医会提供
◇利点だけではない
「アライナー」はこれまでの矯正歯科治療法より治療機器が周囲に見えにくく、患者側の精神的負担も少ないとされ、これを行う歯科医院が増えてきた。しかし、現在では「医療機器などの品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)上の医療機器として認められていない。このため、治療する医師が全責任を負わなければならないことや「アライナー」には不適応な事例も少なくないなど問題も多い。日本臨床矯正歯科医会などは、歯科医師と患者双方に慎重な対応を求めている。
「アライナー」は患者一人ひとりの口の形や歯並びに合わせ、矯正したい歯だけに圧力が掛かるように作製した透明のマウスピースを十数個作製。歯の移動に合わせてマウスピースを順次入れ替え、目標とする位置まで歯を動かす治療だ。
この治療法は、治療中でも患者自身で装置の脱着が可能で、外見上目立たないといった利点がある。一方、歯を大きく動かす場合や複数の方向に移動させる必要がある場合などは効果を上げにくい。「推奨されない」とされている状態も多く、適用とされている症例は限定されているという。利便性などに引かれてこの治療法を選択した結果、治療が難航したり、以前からあるブラケットを歯に装着する「マルチブラケット治療」に切り替えたりする事例もあるという。これは患者にとっては負担だ。
現在も主流のマルチブラケット法による矯正歯科治療=日本臨床矯正歯科医会提供
◇臨床矯正歯科医会が問題提起
日本矯正歯科学会は2017年2月、「アライナー」に関する治療指針を発行した。同指針はアライナーについて「(治療に携わった)歯科医師が、設計を含め、治療計画、治療結果に全責任を負う必要がある」などと明記。日本臨床矯正歯科医会も18年9月に「『アライナー』型矯正装置を用いた不適切な矯正歯科治療について」と問題提起した。同医会の稲毛滋自会長は「新しい矯正歯科治療法である『アライナー』には、まだ治療の推移が予想しきれない部分がある。『アライナー』がうまくいかなかった場合にどうするのか。治療方針を立て直し、目的である歯の移動矯正を実現するかは矯正歯科医の技量に負う部分が多い」と課題を指摘する。
稲毛会長は「『アライナー』の治療は、途中で歯の移動に何らかの問題が発生した場合に対応することは難しい。このため、問題があればマルチブラケット法での治療に切り替えられるだけの十分な専門知識と経験を持つ歯科医師が担う必要があることを、患者側にも知ってもらいたい」と話す。
◇矯正専門でない医師も実施
このような取り組みに力を入れている背景には、「アライナー」を使った矯正歯科治療で、不適切な事例が少なくないことがある。同医会会員である矯正歯科専門開業医を対象に実施した「カスタムメイドのアライナー型矯正装置を用いた不適切な矯正歯科治療の実態調査」では、回答した139人の30.2%(42件)が、17年7月から18年6月にかけて「他の歯科医師によるアライナー治療に不満を抱いた患者を受け入れたり、相談を受けたりした経験がある」としている。
稲毛滋自日本臨床矯正歯科医会会長
回答内容を見ると、治療期間が不適切に長引いていることやかみ合わせに関する患者の不満が多かった。最も問題なことは、「アライナー」治療を実施した歯科医師の半数以上が矯正歯科医ではなく、治療方針の説明を十分にしていない例が少なくなかった点だ。
稲毛会長は「治療法の決定から治療計画の立案、実際の治療やその期間などについて必要な知識や経験を持っていない歯科医師が、患者に対して十分な説明をしていないことが、この調査からも見えてくる」と分析。その上で「アライナー治療」を希望する場合は、矯正歯科医から十分な説明を受けてから決めてほしい、とアドバイスしている。(喜多壮太郎・鈴木豊)
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