Dr.純子のメディカルサロン

アンガーマネジメント
~怒りは「伝える力」に変えられる~

 思わずカッとなって怒鳴った後で後悔。そんな経験はないでしょうか?

 怒って当然の状況だったけど、怒り方がまずかったなあ、ということもあれば、後で考えると怒るほどのことでもなかったかも、ということもあると思います。今、ビジネスパーソンや教育に携わる方、子育て中の方の間でアンガーマネジメントが注目されています。ここでは、心療内科医が考える怒りの対処法、激怒を収める対策についてお話しします。

(文 海原純子)

 ◇怒りの背景を点検してみよう

 まず大事なのは、怒って当然の出来事に腹立たしかったのか、それとも怒るほどのことでもなかったか、の区別です。

 もし後で考えると怒るほどのことでもなかった場合、あなたが「怒りやすい」身体的状況にあった可能性があります。例えば、非常に空腹だった場合、睡眠不足だった場合、女性で生理前などのホルモンバランスが乱れている場合、軽度のうつ状態が続いていた場合、体調が悪く痛みがあるときなどは、いつもならやり過ごせることに過敏に反応してしまいます。心理学では、こうした状態を「閾値(いきち)が下がる」と表現します。

 空腹のとき、飲食店でちょっと待たされると思わず怒鳴りたくなりますよね。病院の受付で待たされて怒鳴りたくなるのも、痛みという状況がそうさせてしまいがち。ですから、もし自分がそうした状況にあるときは「いつもより敏感になっている」ことに気が付き、冷静に自分の状況を伝えようとすることが激怒の予防対策になります。

自分の考えを冷静に伝えようという姿勢を持つことが大事

自分の考えを冷静に伝えようという姿勢を持つことが大事

 ◇トリガー(怒りの引き金)は何か

 自分で気になっているウイークポイントがある場合です。例えば、「仕事がのろいのではないか」と気にしている場合、「太っている」と気にしている場合、年齢を気にしている場合など。

 相手はそんなつもりではなく発した一言に対し、例えば「『年寄りだから』と、ばかにされた」と感じて激怒する場合があります。外的なきっかけがあっても、それをどう感じるかは、その人の内面―つまり「価値観」や「コンプレックス」によって異なります。

 また、「こうあるべきだ」という信念を強く持っている人も、反対意見を聞いたときに怒りを感じやすくなります。

 例えば、「うそをつくのは許せない」「努力は必ず報われるべきだ」ー。どれも道徳的に正しい考えですが、それに反する言動を目にしたとき、過剰に怒りが湧くことがあります。

 こうした自分の敏感部分、トリガーともいえることを知って過剰反応しやすいことに気が付き、自分の考えを冷静に伝えようという姿勢を持つことが大事です。

 ◇突然の激怒―「怒らない人」こそ要注意?

 普段怒ることはなく、いつも温厚で穏やかな人が突然激怒で周囲がびっくりということはありませんか。こうした場合、いつも温厚な人は怒っていないのではなく、怒りを抑圧していた可能性があります。いつも嫌だと怒りを感じていても我慢していると、あるとき限界に達していきなり爆発することになります。怒りを感じたら、怒るのではなく「怒りを伝えよう」という考え方が必要です。

 ◇怒りを伝えるスキル――4つのステップ

 1. 「息を吐く」ことで自律神経を整える

 怒りを感じると、まず息をうっと一瞬止めます。「戦うか逃げるか」の反応が起きてアドレナリンが分泌され、交感神経が興奮して心拍数が増加します。この時点で大事なのは、息を止めないことです。うっと、息を止めてはいけません。唇を少し開いて息を細く、なるべく長く吐き、吐き切ることに集中します。心の中で秒数を数えて息を吐いてください。10秒ほどは息を吐けるはずです。この秒数が冷静さを取り戻すインターバルになるはずです。

 息を吐くと必然的に息を大きく吸うことになり深呼吸ができます。

 2.怒りの中身を言語化する

 自分は何に怒りを感じ、何が嫌だったのか、と考えます。これは自分の怒りという感情を認知する作業です。そして自分がどのような変化を望むのかと考えます。

 それを心の中でまとめて相手に伝えます。

 3.  You メッセージを I メッセージに変換する

 「あなたがこうしたから」と言われると相手は反論したくなります。それを「私はこうしてほしい」というように私を主語にすると伝わりやすくなります。

 4.会話の“終わりどころ”を見極める

 相手に怒りを伝えるとき、今回だけでなく「あの時もこうだった」「この時もこうだった」と過去の問題を蒸し返すと収拾がつかなくなり自分の怒りも再燃します。一度きちんと怒りを伝えたら会話をいつまでも長引かせないことも大事です。

 怒りを感じること自体は決して悪いことではありませんが、怒りを長引かせると心身へのダメージになります。

 怒らない努力ではなく、「上手に怒り、それを伝える」訓練をしていると自己肯定感が生まれます。怒りを“爆発”でも“抑圧”でもなく、怒りを“表現”して伝えることが大人だと思えます。(了)


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