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IBD患者向け食品や料理
~企業や大学が考案~

 腸に慢性的な炎症が生じる炎症性腸疾患(IBD)。この病気への認識を深めるとともに、患者に食を楽しんでもらいたいと、5月19日の「世界IBDデー(IBDを理解する日)」に合わせ、武田薬品工業が全国各地のお土産を安心して食べられる図鑑、東洋大学の学生がハンバーグやエビフライなどのレシピをそれぞれ公開した。どちらも脂質に気を配ったものになっている。

全国各地のお菓子などを脂質などの情報と共に紹介する「お土産図鑑」=2025年5月、都内

 ◇自分に合った食生活が大事

 IBDは大きく潰瘍性大腸炎クローン病に分類される。潰瘍性大腸炎は大腸に、クローン病は大腸や小腸、肛門など消化管のどこにでも炎症が起こる。いずれも主な症状は腹痛や下痢出血(血便)、倦怠(けんたい)感などで、国の難病指定だ。発症の原因は分かっていない。

 国内での患者は増加傾向で、現在、潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は約7万人と推計されている。いずれも10~20代での発症が多い。治療方法は進化しているが、一度罹患すると完治は難しく、病気を抱えながら、就学や就職、妊娠出産などの重要なライフイベントを迎えなければならない。

 日常生活で特に不安やストレスが大きいのがトイレだ。誰もが急な腹痛や激しい便意でトイレに駆け込んだ経験があるが、このつらい症状がIBD患者では頻発し、一日に10回以上起こることもある。

 症状は強く出る時期(活動期)と落ち着く時期(寛解期)を繰り返すが、寛解期であっても、いつ激しい便意が来るか分からないため、患者の多くが外出先や職場・学校で常にトイレを心配している。

 おなかの調子に影響しやすい食事については、活動期は、脂肪や刺激物、食物繊維が少ないものを取るべきとされるが、寛解期では、それほど神経質になる必要はなく、バランスの良い食事を心掛けることが基本。ただ、クローン病は脂質や食物繊維の取り過ぎに注意が必要と言われている。何より、自分の体質に合う・合わない食べ物の見極めが大切だという。

写真撮影に臨む久松教授(右)と重光さん=2025年5月、都内

 杏林大学の久松理一教授(消化器内科学)は「特定の食事や食品でIBDが悪化するという科学的根拠はない。個人差があるし、食品ではくくれない」と指摘。例えば、揚げ物や肉料理で体調が悪くなる患者はいるが、全員に共通するわけではなく、肉の種類や油の量も影響すると説明する。

 「自分に合った食生活を見つけ、調子が良い・悪いで(食事の内容や量を)調整できることが大事。それと、睡眠をきちんと取って、腸を休ませてほしい」と久松教授と話す。「過剰な食事制限は栄養障害になるし、食を楽しめなくなる。マイナスだ」と注意を呼び掛ける。

 ◇お菓子や肉料理も工夫

 脂質が多めの食品や料理も、食べる量や調理法を工夫すれば、腸への負担は軽くなる。

 2020年からIBDの啓発に力を入れている武田薬品工業は、全国各地のお菓子や特産品などを紹介する「お土産図鑑」を同社のIBD関連サイトで公開。計122社の協力を得て、各都道府県ごとに2~3個ずつの商品を取り上げている。

 商品ごとに、原材料や栄養成分、アレルギー情報を載せ、間食の目安となる「脂質5グラム以内」に相当する量を「1/2個」「1/6本」「10枚」などと明記。患者が旅の思い出に現地のお菓子を買うときや、職場などでお土産を小分けしてもらったとき、家族や友人・同僚らが患者にお土産を選ぶ際に活用しやすいようにした。

 自身もクローン病患者で、昨年10月の国際的ミスコンテストに日本代表として出場した重光・ルマ・ナオミさんは「この図鑑は自分が食べられるかどうかが判断できるものになっている。こういうサポートがあると心強い」と話す。

東洋大の学生が作った脂質を抑えた「大人のお子さまランチ」=2025年5月、埼玉県朝霞市

 患者と一緒に食事を楽しめるようにと、東洋大学食環境科学部健康栄養学科の学生は、脂質を抑えつつもボリューム感のあるメニューを考案。学生は今年2月、IBDの公開講座を受け、トイレや食事で苦労する患者の生活も追体験した。メニューは、その経験も生かして考えたという。

 その一つが「大人のお子さまランチ」。鶏むね肉と木綿豆腐を使ったハンバーグ、バターの代わりにオリーブ油を使ったピラフ、油で揚げていないエビフライ、トマトスープ、ベイクドポテト、リンゴと無脂肪ヨーグルトを用いたデザートのセットだ。ハンバーグ、エビフライ、ベイクドポテトはオーブンで焼き、ピラフは炒めずに炊いている。脂質は計9.4グラム。材料の分量と作り方の手順が分かるレシピは同大のホームページで見ることができる。

 同大3年の梅沢侑生(ゆい)さんは「ハンバーグやポテトはやっぱり食べたいと思うので、脂質が抑えられる調理方法を皆で考えた」と振り返り、「IBD患者は頻繁にトイレに行くなど大変な思いをしている。そうした人に手を差し伸べられるようになりたい」と語った。(及川彩)

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