「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まる
~認知症の予防にも期待が~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第17回】

 今年4月から高齢者を対象に、帯状疱疹(ほうしん)ワクチンの定期接種が始まりました。帯状疱疹は高齢者などに多く見られる皮膚病ですが、高価なワクチンのため接種をためらう人も少なくありませんでした。それが、接種対象者なら、一部を負担することで受けられるようになったのです。さらに、ここ数年の研究によれば、このワクチンが認知症の予防にも効果があるとの結果が出ています。今回は最近話題の帯状疱疹ワクチンについて解説します。

 ◇3人に1人が発病

顔にできた帯状疱疹

顔にできた帯状疱疹

 帯状疱疹は皮膚に有痛性の発疹を起こす病気で、小児期にかかった水痘ウイルスが原因になっています。このウイルスが水痘治癒後、脊髄の神経などに持続感染し、感染者の免疫が低下してくると、再び活発になり発疹を生じるのです。水痘の場合は全身の皮膚に発疹が及びますが、帯状疱疹では神経に沿って帯状に現われるのが特徴です。この発疹は水疱(すいほう)状で強い痛みを伴うだけでなく、消失後も神経痛が残ることがあります。顔に発疹が出ると、ラムゼイハント症候群と呼ばれる顔面神経まひを起こしたり、眼球を傷害して失明に至ったりするケースもあります。

 帯状疱疹が起きやすいのは免疫が低下している状態で、特に高齢者で多いとされており、80歳までに3人に1人が発病するというデータもあります。

 このように、高齢者にとって帯状疱疹は日常的に起こる病気ですが、最近は特に患者数が増えています。原因の一つには小児の水痘患者が激減したことがあるようです。

 ◇小児の水痘ワクチン接種の影響

 水痘ウイルスは空気感染や飛沫(ひまつ)感染で広がる感染力の強い病原体です。このコラムの読者の大多数は、小児期に水痘にかかり、体内に帯状疱疹の原因となる水痘ウイルスを持っていると思います。

 しかし、2014年から小児への水痘ワクチンの定期接種(生ワクチンを1~2歳ごろに2回接種)が始まり、これ以降は小児の水痘患者が大幅に減りました。水痘患者の中には重症化する人もいるため、小児にとっては大変に有益なワクチンでした。

 一方で、水痘患者の激減は、体内に水痘ウイルスを持つ大人の世代に影響を及ぼしました。小児の水痘患者が多発している間は、大人にも無症状の再感染が時々起こり、免疫を増強していたのですが、そうした機会が無くなったことで、大人のウイルスへの免疫低下が顕著になってきました。すなわち、帯状疱疹をより発病しやすくなったのです。

 なお、25年は日本各地で小児の水痘患者が再増加していますが、小児の定期接種開始前に比べると、大変少ない患者数です。

 ◇2種類のワクチン

 このように、高齢者の帯状疱疹患者が増えている一因としては、小児で水痘患者が減ったことが関係しているわけですが、それに代わる免疫の増強方法としてワクチン接種が推奨されています。

高齢者への予防接種風景

高齢者への予防接種風景

 現在、帯状疱疹の予防に使用するワクチンは2種類あります。一つは小児の予防にも用いた水痘の生ワクチンで、もう一つは、ウイルスの抗原成分を遺伝子組み換え技術で作成した不活化ワクチンです。この二つを比較してみましょう。

 まず対象年齢。生ワクチンは小児から大人まで広い世代に使用できますが、不活化ワクチンは50歳以上が主な接種対象です。今回の定期接種は高齢者が対象ですので、いずれも使用できることになります。

 次に有効性。帯状疱疹の予防効果は、生ワクチンが40~60%であるのに比べて、不活化ワクチンは90%以上と高くなっています。ただし、生ワクチンは1回接種のみですが、不活化ワクチンは2回接種(2カ月以上空けて)でなければなりません。そしてワクチンの有効期間は、生ワクチンが約5年間なのに対して、不活化ワクチンは10年近くとされています。

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