女性アスリート健康支援委員会 女子選手のヘルスケアを考える

心身全般に影響するエネルギー不足
男女問わない「RED―S」の概念も紹介

 女性アスリート特有の健康問題について、米国スポーツ医学会が「女性アスリートの三主徴」を定義し、対策に乗り出したのは1990年代のことだ。体の「利用可能エネルギー不足」が「無月経」の温床で、無月経が続くと骨を丈夫にする女性ホルモンのエストロゲンの分泌も抑えられ、「骨粗しょう症」のリスクが高まることは近年、日本でも理解が深まりつつあるが、十代からの予防と対処法の普及はまだまだ不十分だ。

スポーツ医学の最新知識を説明する能瀬さやか医師

 女性アスリート健康支援委員会(川原貴会長)が2月1日、東京都内で開いた集会「Female Athlete Conference 2020~女子選手のヘルスケアを考える~」でも、「三主徴の予防と治療」に関する啓発は改めて重要なテーマとなった。東大医学部付属病院・女性アスリート外来の能瀬さやか医師らが最新の知識を交えて予防と早期対応の大切さを訴えた。

 ◇「三主徴」が生涯の健康に影響

 能瀬医師は「女性アスリートの三主徴からRED―Sへ」と題した講演で、「アスリートの月経不順や無月経は体の利用可能エネルギー不足のサイン」の疑いがあることをまず紹介した。

 利用可能エネルギー不足とは「1日に食事などで摂取する総エネルギー摂取量から、運動によるエネルギー消費量を引いた値が、除脂肪量(体重から脂肪組織の重量を引いた値)1キログラム当たりで30キロカロリー未満」の状態と定義される。その疑いがある人のスクリーニングは、成人の場合には体格指数(BMI)17.5以下、思春期の場合には標準体重の85%以下であることが目安だ。

 能瀬医師は、過去に日本人の女子選手300人の三主徴について調べたデータを紹介。「婦人科を受診した選手が多いので、無月経の割合は高い(39%)」と説明した上で、「体格指数(BMI)や標準体重から見て利用可能エネルギー不足の人が14%。低骨量または骨粗しょう症と診断された人は23%いた」と述べた。

 また、競技・種目別に選手の腰椎骨密度を調べた別の調査などにも触れ、「全体的に無月経の選手は明らかに骨量が低く、特に陸上中長距離の選手は顕著」という傾向も紹介した。「三主徴を持つアスリートは疲労骨折のリスクが高く、20代より10代でリスクが高い」という。

 能瀬医師は「最大骨量獲得(20歳ごろ)前の10代の時期に無月経で極端な低エストロゲン状態が長期間続いたり、体重が少ない状態になったりすると、最大骨量が獲得できず、生涯にわたって低骨量のまま。競技生活を終えたあとの健康にも影響するので、十代でいかにエネルギー不足を回避するかが重要」と問題のポイントを解説した。

 ◇パフォーマンス低下の原因に

 女性アスリートの三主徴(女性アスリート健康支援委員会のカラダテキストブック「スポーツ女子をささえる人に知ってほしいこと」より)

 利用可能エネルギー不足による影響は、こうした三主徴の範囲にとどまらず、心身全般に影響する恐れがあるという。能瀬医師は「もはや男女を問わず、月経や骨の問題だけにとどまらない」と述べ、国際オリンピック委員会(IOC)が近年提唱する「スポーツによる相対的なエネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport(RED―S)」の概念を紹介した。

 IOCの合同声明(2018年改訂)は、RED―Sが全てのアスリート、パラアスリートにおいて、月経や骨以外に、発育発達、精神、心血管系、消化器系、免疫系、内分泌、代謝、血液といった全身に悪影響を与え、結果的にパフォーマンス低下をもたらすと警鐘を鳴らしている。

 能瀬医師は「RED―Sの一部に三主徴がある。RED―Sがあると、例えば、うつ傾向が見られたり、筋力や持久力の低下が見られたりして、最終的にはパフォーマンスを落とす原因になる。しっかりエネルギーを取った上でスポーツを行うことをIOCは推奨している」と強調した。

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