女性アスリート健康支援委員会 女子選手のヘルスケアを考える
心身全般に影響するエネルギー不足
男女問わない「RED―S」の概念も紹介
無月経の原因が利用可能エネルギー不足だった場合、治療もエネルギー不足の改善が最優先だ。具体的には、運動量と食事量のいずれか、または両方を見直すことになる。それでも、月経が戻らない選手らに対しては、経皮エストロゲン製剤を使ったホルモン療法が選択肢となる。
前者については「本人は一生懸命食べているつもりでも、増加分のエネルギー量を摂取しきれていないことがある」と指摘。「特に多くの選手は、必要な糖質量を取り切れていない傾向がある」とも述べ、「ご飯を制限する」といった減量時の誤った食事例を挙げた。
三主徴の治療にはある程度の期間が必要で個人差も大きい。エネルギー不足の回復には数日から数週間、月経異常の回復には数カ月かかり、骨量の回復は何年も経過するまで認められないことがあるという。小清水教授は、栄養指導に当たり、コーチや医師、栄養士ら各専門分野のスタッフが連携して選手のサポート体制を構築することが必要と強調した上で、「やはり予防が大切」と訴えた。
エネルギー不足の予防は、摂食障害のリスクを回避することにもつながる。国立スポーツ科学センターのスタッフで臨床心理士の関口邦子氏は「摂食障害の早期発見に向けて」と題して講演し、神経性やせ症(拒食症)や神経性過食症(過食症)といった摂食障害を女性アスリートが発症するリスクは一般の人より2~3倍高いと警鐘を鳴らした。
予防のための注意点として挙げたのは①健康な減量や栄養の正しい知識を持つ②指導者は選手に多大な影響を与えていると自覚する③皆に分かる形での体重計測はやめる③戦績が伸びない、人間関係、家族と離れての暮らし、食環境の変化といったストレスに注意する―の4点だ。
◇五輪開催を課題見つめ直す契機に
十代の選手に対しては、指導者の姿勢が特に重要になる。関口氏は「アスリートは指導者の言うことをしっかり守る従順な人が多い。小さい頃からマンツーマンで指導を受けた場合はなおさらだ。『生理が来なくて一人前』とか『痩せれば記録が伸びる』の一言で減量を始め、摂食障害に至ってしまうことも多い」と述べた。
集会では最後に、ヨーコ・ゼッターランド日本スポーツ協会常務理事があいさつ。東京五輪・パラリンピックが今年開催されることに触れ、「世界中から来るアスリートの躍動が見られる素晴らしい年になるが、スポーツ界にとってはゴールではなく、解決すべき課題を見つめ直すスタートの年になる」と話し、女性アスリートの健康を守る必要性を発信していこうと来場者に呼び掛けた。(水口郁雄)
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(2020/02/29 16:00)