女性アスリート健康支援委員会 女子選手のヘルスケアを考える

心身全般に影響するエネルギー不足
男女問わない「RED―S」の概念も紹介

 ◇運動量や食事量の見直しが最優先

 無月経の原因が利用可能エネルギー不足だった場合、治療もエネルギー不足の改善が最優先だ。具体的には、運動量と食事量のいずれか、または両方を見直すことになる。それでも、月経が戻らない選手らに対しては、経皮エストロゲン製剤を使ったホルモン療法が選択肢となる。

 栄養学の立場から講演する小清水孝子教授
 公認スポーツ栄養士の小清水孝子大妻女子大教授は、利用可能エネルギー不足の改善に向けた栄養指導をテーマに講演。その中で、エネルギー不足に陥る要因としては、運動の強度・時間からエネルギー消費量が大幅に増加しているケースと、過度の減量をしているケースの二通りあることを説明した。

 前者については「本人は一生懸命食べているつもりでも、増加分のエネルギー量を摂取しきれていないことがある」と指摘。「特に多くの選手は、必要な糖質量を取り切れていない傾向がある」とも述べ、「ご飯を制限する」といった減量時の誤った食事例を挙げた。

 三主徴の治療にはある程度の期間が必要で個人差も大きい。エネルギー不足の回復には数日から数週間、月経異常の回復には数カ月かかり、骨量の回復は何年も経過するまで認められないことがあるという。小清水教授は、栄養指導に当たり、コーチや医師、栄養士ら各専門分野のスタッフが連携して選手のサポート体制を構築することが必要と強調した上で、「やはり予防が大切」と訴えた。

 エネルギー不足の予防は、摂食障害のリスクを回避することにもつながる。国立スポーツ科学センターのスタッフで臨床心理士の関口邦子氏は「摂食障害の早期発見に向けて」と題して講演し、神経性やせ症(拒食症)や神経性過食症(過食症)といった摂食障害を女性アスリートが発症するリスクは一般の人より2~3倍高いと警鐘を鳴らした。

 予防のための注意点として挙げたのは①健康な減量や栄養の正しい知識を持つ②指導者は選手に多大な影響を与えていると自覚する③皆に分かる形での体重計測はやめる③戦績が伸びない、人間関係、家族と離れての暮らし、食環境の変化といったストレスに注意する―の4点だ。

 ◇五輪開催を課題見つめ直す契機に

 十代の選手に対しては、指導者の姿勢が特に重要になる。関口氏は「アスリートは指導者の言うことをしっかり守る従順な人が多い。小さい頃からマンツーマンで指導を受けた場合はなおさらだ。『生理が来なくて一人前』とか『痩せれば記録が伸びる』の一言で減量を始め、摂食障害に至ってしまうことも多い」と述べた。

 「解決すべき課題を見つめ直すスタートの年に」とヨーコ・ゼッターランド常務理事
 もしも摂食障害になってしまった選手がいたら、早期治療が何より大切だ。治療が遅れるとなかなか治らず、重症化する恐れもある。現役引退後も長い間、苦しんでしまう人も決して一握りではない。この日の総合討論にゲストとして招かれた元マラソン日本代表の原裕美子さんもその一人。その体験談は改めて紹介する。

 集会では最後に、ヨーコ・ゼッターランド日本スポーツ協会常務理事があいさつ。東京五輪・パラリンピックが今年開催されることに触れ、「世界中から来るアスリートの躍動が見られる素晴らしい年になるが、スポーツ界にとってはゴールではなく、解決すべき課題を見つめ直すスタートの年になる」と話し、女性アスリートの健康を守る必要性を発信していこうと来場者に呼び掛けた。(水口郁雄)

  • 1
  • 2

女性アスリート健康支援委員会 女子選手のヘルスケアを考える