中国・Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical CollegeのMeice Tian氏らは、同国の2,655例を対象に冠動脈バイパス術(CABG)における、静脈に直接触れないNo-touch法による大伏在静脈グラフト(SVG)採取の有効性を従来法と比較した多施設ランダム化比較試験(RCT)PATENCYの延長追跡を実施。その結果、従来法群と比べてNo-touch法群で術後3年時点のグラフト閉塞率が有意に低下したとBMJ(2025; 389: e082883)に発表した。
欧州GLでは直視下切開採取でNo-touch法を推奨
従来法による大伏在静脈採取とは異なり、No-touch法ではグラフトの栄養血管や内皮機能を損なわないように血管外膜および血管周囲組織を温存し、静脈の拡張処理は行わない。従来法が静脈のみを採取するのに対し、No-touch法は周囲の脂肪組織とともに採取し、静脈には直接触れないのが特徴だ。そのため、内皮障害や炎症反応が抑制されグラフトの開存性が高まる。欧州心臓病学会(ESC)/欧州心臓・胸部外科学会(EACTS)の心筋血行再建ガイドライン(GL)2018年版では、静脈グラフトの直視下での切開採取に際してNo-touch法の使用を推奨している(推奨クラスⅡa、エビデンスレベルB)。
PATENCYはNo-touch法の長期有効性を検討したRCT。中国の7施設においてSVGを用いた単独CABGを施行予定の18歳以上の成人2,655例(平均年齢61歳、男性78%、糖尿病合併例36%、3枝病変88%)を登録し、No-touch法群(1,337例)と従来法群(1,318例)に1:1でランダムに割り付けた。同試験ではこれまでに、術後3カ月および12カ月時点のグラフト閉塞リスクがNo-touch法群で有意に低下することが示されていた。
グラフト閉塞、心筋梗塞、再血行再建が有意に減少
今回の解析では、術後3年時点のCT血管造影に基づく静脈グラフト閉塞を主要評価項目として盲検下で検討した。その結果、No-touch法群では従来法群と比べてグラフト閉塞率が有意に低かった〔5.7% vs. 9.0%、オッズ比(OR)0.62、95%CI 0.48~0.80、絶対リスク差(ARD)-3.2%、95%CI -5.0%~-1.4%、P<0.001〕。
副次評価項目とした3年時点の臨床転帰についても、No-touch法群における有意な発生率低下が非致死性心筋梗塞〔1.2% vs. 2.7%、ハザード比(HR) 0.45、95%CI 0.25~0.81、ARD -1.5%、95%CI -2.6%~-0.4%、P=0.01〕、再血行再建術(1.1% vs. 2.2%、同0.51、0.27~0.95、-1.1%、-2.1%~-0.1%、P=0.03)、再発性狭心症(6.2% vs. 8.4%、同0.73、0.55~0.97、-2.3%、-4.3%~-0.3%、P=0.03)、心疾患による再入院(7.1% vs. 10.2%、同0.68、0.52~0.89、-3.2%、-5.4%~-1.0%、P=0.004)で認められた。
以上を踏まえ、Tian氏らは「CABGにおけるNo-touch静脈採取法は長期にわたる持続的なグラフト開存をもたらし、心筋梗塞および再血行再建術の発生率を低下させて患者の転帰を改善することが示された」と結論。サブグループ解析では、No-touch法によるグラフト閉塞リスク低下に関して年齢、性、併存疾患などによる差がなかったことから、「No-touch法は患者特性を問わず等しく有益である可能性が示唆された」と考察している。
(医学翻訳者・執筆者・太田敦子)