こちら診察室 進歩する人工関節

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~人工関節の技術革新で広がる選択肢~ 第3回

 人工関節の機械的耐久性はかつて10~20年程度といわれ、手術後における患者さんの負担もあったので「人工関節置換手術は原則1回、70歳前後にタイミングを見て」とされていました。これは、仮に人の平均寿命を80~85歳、人工関節の耐久性を約15年とした場合、70歳前後に手術を受けた方が人工関節を再び取り換える再置換手術の可能性が低くなるという考えに基づいていました。これまで再置換手術に関しても、加齢による骨の劣化、体力の低下やリハビリの難しさなどから「あまり勧められない」との考え方が主流でした。しかし、近年の人工関節の技術革新により、状況は大きく変化しています。

人工関節手術の様子=東京医科大学病院提供

 ◇20~30年間使用もOK

 1990年代以降、人工関節の製造技術の進歩に加え、改良を重ねて耐久性や安全性は目覚ましく向上しました。また、人工関節のデザインや形状の適合性や材料の表面処理技術の進歩によって、骨との固着性能も格段に良くなりました。さまざまな技術革新によって、現在では通常の生活を送っている人の場合は平均20~30年間の使用にも耐えられるようになりました。

 50~60代はもちろん、40代でも生活レベル向上のために人工関節に置換する人が増えています。平均寿命は今後も延びると見込まれており、70歳以上であっても社会活動や趣味、スポーツなど積極的に活動したいという人が増加しています。そんな事情を反映してか、90歳以上で手術を受けられる方もいらっしゃいます。

 こうした状況により、現在日本では1年間に約10万5000件の人工膝関節、約8万5000件の人工股関節が埋め込まれており、10年前と比べると、手術件数は1.5倍程度まで増加し、今後も右肩上がりに上昇することが予想されます。

 朗報を紹介します。個々の患者に最適な形状や特性を発揮できる超長寿命型カスタマイズド人工関節の研究開発が、国家プロジェクトとして進められており、近い将来の導入が期待されています。

患者に手術の説明をする山本謙吾教授

 ◇再置換手術の現況

 ただ、現在の最新の人工関節でも永久に使用できるわけではありません。術後長期間経過したり、労働や運動によって関節に過剰な負担がかかったりして、人工関節の変性、摩耗、破損などが生じると、再度置換手術が必要になる場合もあります。

 しかし、近年の人工関節の発達や置換手術法、リハビリの手法の進歩により、再置換手術の成功率も向上しており、さらに先進テクノロジーを駆使した手術支援ロボットの導入などによって、より正確で安定した生活のできる手術が可能となりました。

 一方で、高齢者への手術については骨粗しょう症や心疾患など、さまざまなリスクが伴います。そのため、手術を行う際には、患者さんの年齢や体力、全身状態などを総合的に判断する必要があります。高齢者に限らず、手術後にスポーツを継続される人は、再手術のリスクを最小限にするためにも定期的な検診が重要となります。(了)


 山本謙吾(やまもと・けんご) 東京医科大学病院整形外科主任教授、同大学病院院長。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本人工関節学会認定医。1983年東京医科大学卒業、98~99年米ロマリンダ大学留学、2004年東京医科大学整形外科学教室主任教授、10年東京医科大学病院リハビリテーションセンター部長兼任。


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