顎関節(あご関節)の症状

■口があかない(開口障害)
 ふつうの人は口をあけたとき、上下の前歯の間の距離は40~50mm前後(指3本分)です。口が十分にあかなくなった状態を開口障害といいます。その原因として、以下のことが考えられます。
 1.あごの関節に外傷を受けたり、炎症が起こったりすると、口があかなくなります。ついには癒着して、まったくあかなくなることもあります(顎〈がく〉関節強直症)。子どものころにこの状態になると、下あごの骨の発育がとまって下あごが小さくなることもあります(小下顎症〈しょうかがくしょう〉)。
 2.あごを動かす筋肉に、感染や外傷などによって炎症が起こっても口はあかなくなります。親しらずなどの奥歯が原因となることが多く、この場合は炎症がおさまればあくようになります。
 3.広範囲に広がった口内炎やがんで、筋肉や関節に影響が及んだときにも起こります。
 4.破傷風てんかん、ヒステリーなどでは筋肉がけいれんして口があかなくなります(強直性けいれん)。
 5.筋肉や靱帯(じんたい)、あるいは関節の骨などが痛くてあかない場合と、関節の中にある円板が原因であかない場合があります。特に、ずっと関節がコリコリ、コキンという音が続いてから、音が消失して口があかなくなった場合は、関節円板が移動して起こる顎関節症の一種で、もっとも多い病態と考えられています。

■顎関節の痛み
 外傷や炎症、顎関節部にできた腫瘍によって、関節に痛みが生じます。これは、なにもしなくても痛みを感じる自発痛の場合がほとんどです。これに対して、はれや自発痛がなくて関節の骨、関節のまわりの靱帯、関節を動かしている筋肉などに圧痛(押したときの痛み)だけがみられる場合や、あごを動かしたときに生じる痛み(運動痛)の場合には、顎関節症がもっとも疑われます。

■雑音
 顎関節の中には関節円板という線維性組織のクッションのようなものがあり、その円板は通常は関節の動きと連動します。ところが、円板の位置がずれたり、あごの動きとあわなくなると関節の間にはさまったり、すれたりしてコキンとかコリコリという音が出ます。
 音の大きさは自分だけにしか聞こえない程度のものから、ほかの人にも聞こえるような大きなものまであります。さらに、ミシミシ・メリメリという音が出る場合は、関節円板そのものが傷ついたり、穴があいたりしている可能性がありますので、早めに専門医を受診したほうがよいでしょう。

■かみ合わせのずれ
 顎関節部の外傷、特に骨折や腫瘍によって、かみ合わせに変化が生じます。
 痛みやはれがなくてもかみ合わせに変化が生じた場合には、専門医を受診し、X線写真、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)などの検査を受けたほうがいいでしょう。

(執筆・監修:東京大学 名誉教授/JR東京総合病院 名誉院長 髙戸 毅)