フィンランド・University of OuluのMiika Kujanpää氏らは、フィンランド人集団における薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の発生率および関連する骨吸収抑制薬を評価する目的で、骨吸収抑制薬を処方された18歳以上の5万8,367例を後ろ向きに検討。MRONJ発生リスクは、用量にかかわらずビスホスホネート(BP)製剤投与例に比べデノスマブ投与例で5倍に上ったとの結果を、Sci Rep2025; 15: 17377) に報告した。

骨吸収抑制薬投与の内訳はBP製剤63.2%、デノスマブ22.1%、逐次療法14.6%

 デノスマブとBP製剤などの骨吸収抑制薬は、骨粗鬆症、がんによる高Ca血症やがんの骨転移による骨病変の治療などに用いられるが、MRONJとの関連が指摘されている。米国口腔顎顔面外科学会(AAOMS)はMRONJを「8週以上持続する顎顔面領域の口腔内または口腔外の瘻孔からの露出骨または探触できる骨を認める場合を指す」と定義している

 2003年に初のMRONJ例が報告されて以降、頻繁に報告されている(J Oral Maxillofac Surg 2003; 61: 1115-1117)。なお、がん患者におけるMRONJ発生率は2010年に6.1%と報告されており(Support Care Cancer 2010; 18: 1099-1106)、近年がん患者および骨粗鬆症患者のいずれも骨吸収抑制薬の選択、投与量、投与経路に応じてMRONJ発生率に幅(1~19%)があることが、システマチックレビューとメタ解析で示されている(Support Care Cancer 2021; 29: 2305-2317)。

 フィンランドではこれまで、骨吸収抑制薬投与例を対象とした大規模コホート研究は実施されていなかった。Kujanpää氏らは今回、同国のナショナルレジストリ、フィンランド保健福祉研究所(THL)データベース、フィンランド社会保険機構(Kela)から2013~15年に骨吸収抑制薬を処方された18歳以上の患者5万8,367例(平均年齢は72.4±11.6歳、女性82%)を抽出し、2020年まで追跡。MRONJ発生率および危険因子を解析した。

 骨吸収抑制薬投与の内訳は、BP製剤が63.2%、デノスマブが22.1%、逐次療法は14.6%で、投与目的は主に骨粗鬆症(86.7%)だった。

 今回の検討は、同国で実施されたMRONJの発生率および危険因子に関する初のコホート研究である。

がん患者では低用量骨吸収抑制薬投与でリスク99倍

 解析の結果、2013~20年におけるMRONJ累積発生率は、使用目的・用量に応じて0.14%(低用量BP製剤)~11.41%(高用量デノスマブ)と幅が見られた。MRONJ発生率のピークは、高用量例(85例)および低用量例(25例)とも処方開始後5年だった。

 MRONJ発生リスクは、BP製剤投与例に比べデノスマブ投与例では低用量例〔調整ハザード比(aHR)5.03、95%CI 3.23~7.82、P<0.001〕および高用量例(同5.07、2.94~8.72、P<0.001)とも5倍に上った()。また、逐次療法(BP製剤→デノスマブ)例におけるMRONJ発生リスクは、BP製剤単独投与例に比べ低用量例(同2.37、1.42~3.96、P<0.05)および高用量例(同2.39、1.43~4.00、P<0.001)のいずれも有意に高かった()。

表. 骨吸収抑制薬の用量別に見たMRONJの危険因子

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(編集部作成)

 さらに、骨粗鬆症患者に比べ全てのがん患者では、MRONJ発生リスクが骨吸収抑制薬低用量例で99倍と有意に高く(aHR 99.21、95%CI 51.69~190.43、P<0.001)、コルチコステロイド併用例におけるリスクは骨吸収抑制薬低用量例で6.3倍(同6.35、3.71~10.87、P<0.001)、高用量例では2倍(同2.01、1.52~2.64、P<0.001)と、いずれも有意に高かった()。

 血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬の併用例では、骨吸収抑制薬高用量例でのみ有意なリスクの上昇が見られた(aHR 1.77、95%CI 1.23~2.54、P<0.05、)。

 一方、高用量の骨吸収抑制薬が投与されていた女性ではリスクの有意な低下が認められ(aHR 0.67、95%CI 0.52~0.86、P<0.05、)、Kujanpää氏らは「乳がんよりも前立腺がんによるMRONJ発生リスクが高いことと関連している可能性がある」と考察している。

 以上の結果を踏まえ、同氏らは「注意すべきMRONJの危険因子として、デノスマブまたはBP製剤→デノスマブによる逐次療法、全てのがんの診断、骨吸収抑制薬とコルチコステロイドの併用が抽出された。骨吸収抑制薬の処方時には、これらの因子を慎重に検討する必要がある」と結論。その上で、骨吸収抑制薬におけるMRONJリスクは、薬剤クラスよりもむしろ投与目的や投与量に留意して検討すべきだと付言している。

(編集部・田上玲子)