破傷風〔はしょうふう〕 家庭の医学

 破傷風毒素を産生する破傷風菌(Clostridium tetani)が、外傷部位などから組織内に侵入し、嫌気的な環境下で増殖した結果、産生される破傷風毒素により、神経刺激伝達障害を起こす疾患です。破傷風菌は、芽胞(がほう:細胞内にある胞子に似た球状の構造体)のかたちで土壌中に広く常在し、創傷部位から体内に侵入すると、芽胞が感染部位で発芽・増殖して破傷風毒素を産生するようになります。
 潜伏期は3~21日で、発症すると局所(痙笑〈けいしょう:ひきつり笑い〉、開口障害、嚥下〈えんげ〉困難など)から始まり、全身(呼吸困難や後弓反張〈こうきゅうはんちょう:強いけいれんにより全身が後方弓形に反り返る状態〉など)にひろがる強直性けいれんを起こすのが特徴です。重篤な患者では、呼吸筋のまひにより窒息死することがあります。
 国内では年間約100人が破傷風を発病し、このうち5~9人は破傷風が原因で死亡しています。破傷風にかかる人のほとんどは、1968年以前に生まれたワクチン接種をしていない成人です。
 発症すると致命的となる場合が多いので、破傷風トキソイドによる予防接種により予防することが重要です。国内では破傷風トキソイドを含む二種混合ワクチン(ジフテリア〈diphtheria〉・破傷風〈tetanus〉混合ワクチン:DTワクチン)、三種混合ワクチン(ジフテリア〈diphtheria〉・百日せき〈pertussis〉・破傷風〈tetanus〉混合ワクチン:
DPTワクチン)、四種混合ワクチン(三種混合ワクチンに不活化ポリオワクチン〈inactivated polio vaccine〉を加えたワクチン:DPT-IPVワクチン)による定期接種が小児を対象におこなわれています。破傷風発症のリスクのある外傷を受傷した際には、抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与および破傷風トキソイドの接種により発症を予防します。

【参照】外傷[創傷]:破傷風

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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