口の(粘膜)症状

■粘膜の症状
 口の粘膜の症状は経過によって変化することが多く、異なった原因でも同じ症状を呈するものもあります。このため1つの症状からいくつかの疾患を鑑別する必要があります。
また、口の粘膜に起こる炎症を総称して口内炎といいます。

□水疱をつくる疾患
 天疱瘡(てんぽうそう)などの自己免疫疾患や遺伝性疾患の先天性表皮水疱(すいほう)症などがあります。これらの疾患は、皮膚にも症状があらわれることがほとんどです。このほか比較的多いものではヘルペス性口内炎帯状疱疹(たいじょうほうしん)ヘルパンギーナ手足口病などのウイルス性疾患があります。

□アフタ性疾患
 再発性アフタがもっとも多く、原因不明で類円形の小潰瘍をくり返します(アフタ性口内炎)。ベーチェット病の初発症状として、その90%以上に発症します。


□白斑ができる疾患
白板症
 拭いてもとれない白板で前がん病変とされています。白斑(はくはん)と赤斑の混在する不均一型、斑点型ががん化しやすいといわれています。
・ニコチン性口内炎
 喫煙者の口の中にできる口内炎で、発赤(ほっせき)で始まり進行すると粘膜が白色になってかたくなります。
口腔カンジダ症
 真菌のカンジダアルビカンスの感染によって生じます。日和見(ひよりみ)感染(菌交代現象)の一つです。

□紅斑ができる疾患
・紅斑症
 発赤したビロード状の紅斑として生じる前がん病変とされています。きわめてまれです。

□びらん、潰瘍をつくる疾患
褥瘡性潰瘍(じょくそうせいかいよう)
 不適合な入れ歯などの刺激などで生じる潰瘍です。
扁平苔癬(へんぺいたいせん)
 炎症性角化症。白い丘疹(きゅうしん:ぶつぶつ)と多数の細い白線(ウィッカム線条)と発赤やびらんをつくります。
・急性壊死(えし)性潰瘍性口内炎
 歯肉辺縁より始まる潰瘍で、スピロヘータなどの嫌気性菌の混合感染により生じます。このほか、免疫(めんえき)不全などの素因による壊疽(えそ)性口内炎や口腔(こうくう)結核症や口腔梅毒でも潰瘍ができます。
・多形滲出性紅斑症候群
 左右対称的に出る滲出(しんしゅつ)性の紅斑。症候性は皮膚のほか口腔粘膜に紅斑とびらんが生じます。
全身性エリテマトーデス
 口腔粘膜では紅斑やびらんを生じます。
・アレルギー性口内炎
 ほとんどが薬物性。ほかに金属アレルギーによるものがあります。多くはびらんを生じます。時には扁平苔癬となることもあり、ウイルス性ですと、多型滲出性紅斑症候群になる場合があります。

□色素異常
1.メラニン色素沈着
 歯肉に多く、有色人種ではある程度生理的なものです。内在性色素沈着
・メラノージス
 メラニン色素の斑状、点状の集まり。メラニン色素症、黒色症ともいいます。
・色素性母斑(ぼはん)
 メラニン細胞が異常に増殖した病変。皮膚でいうところの「ほくろ」です。
・ポイツ・ジェガース症候群
 くちびる、口腔粘膜、手のひら、足の裏の色素沈着と、大腸の多発性ポリープを生じる疾患です。
アジソン病
 副腎皮質の慢性機能不全による疾患で、皮膚と口腔の粘膜に色素沈着を起こします。
2.外来性色素沈着(食物や薬剤による)
・鉛縁(なまりえん)、蒼鉛縁(そうえんえん)
 歯肉縁に沿って暗青色、黒青色の着色が生じます。
・黒毛舌
 舌乳頭(ぜつにゅうとう)の角化突起の延長に色素沈着したもので、カンジダ症などの菌交代現象によって生じます。

□血液疾患による口腔粘膜症状
 白血病では歯肉出血、歯肉増殖および急性壊死(えし)性潰瘍性歯肉炎などが生じます。血友病では歯肉出血、血腫を生じます。舌では鉄欠乏性貧血やビタミンB12欠乏による悪性貧血での舌の紅斑と疼痛(とうつう)、平滑舌(へいかつぜつ)などがみられます。血小板減少性紫斑(しはん)病では粘膜の紫斑、血腫などが生じます。

□その他の口唇炎、舌炎、粘膜症状
 くちびるでは、薄く慢性に剥離(はくり)する剥離性口唇(こうしん)炎、くちびるがやわらかく腫脹する肉芽(にくげ)腫性口唇炎などがあります。
 口蓋粘膜では、高温の食物摂取によるやけど(熱傷)がよく起こります。

 舌では舌乳頭が増殖した舌苔(ぜったい)や地図状舌(落屑〈らくせつ〉性表在性舌炎)、口腔乾燥(シェーグレン症候群)、遺伝的原因でできる溝状舌などがあります。
 このほかにフォーダイス斑(本来は皮膚の下にある皮脂腺が、ほおの粘膜に小さな斑点としてできたもの)と、麻疹(ましん)感染時に生じるコプリック斑の鑑別が必要です。

■口臭
・生理的口臭
 健康な人でも呼気(こき:口から吐く息)にはにおいがあります。特に、起床したとき、空腹のとき、疲れたとき、精神の緊張が続いて口がかわいたときには、口臭が強くなります。口が不潔でもにおいます。
・病気が原因の口臭
 むし歯、歯周病、口内炎、悪性腫瘍などの口の病気、鼻の病気、のどの病気、ある種の呼吸器病や胃腸病、糖尿病、尿毒症などが原因となります。
・細菌による口臭
 目に見える病気がなくても口臭の強い人がいます。誰でも口やのどには細菌(常在菌)がたくさんいるのですが、においを強く出す細菌がすみつくと口臭が強くなることがあります。こういう人は、うがい薬やトローチなどで口の中の消毒をしたり、抗菌薬を服用するとにおいが少なくなります。
・精神的な口臭
 強いにおいがなくても自分の口のにおいが気になる人がいます(口臭症)。これは口腔異常感症の一つとしてあげられています。

■口腔乾燥(ドライマウス)
 高齢になると、唾液腺(だえきせん)が萎縮(いしゅく)して、口はかわきがちになります。若くても緊張が続いたり、興奮したりすれば口がかわきます。また、胃腸の病気や糖尿病があると口がかわきます。検査のために胃液などの分泌を抑える薬を使ったあとも口がかわきます。これは自律神経が抑制あるいは刺激されるために起こるものです。唾液腺の病気によるものもありますが、1つの唾液腺の障害で口がかわくことはあまりありません。
 唾液腺全体に起こる病気(シェーグレン症候群、ミクリッツ病)や悪性腫瘍に対する放射線治療の後遺症(照射野に唾液腺が含まれた場合、機能低下が生じる)でも、口がかわきます。
 口がかわくと粘膜が荒れたり、過敏になったりします。舌が焼けるように痛んだり、赤く平らになることもあります。いちじるしいときには食物が飲み込みにくくなり、発音がしにくくなり、入れ歯の安定がわるくなり、むし歯になりやすくなります。
 原因となる病気があれば、その治療をしますが、唾液腺の萎縮によるものは根本的な治療法がありません。人工唾液、唾液腺ホルモンを使うこともありますが、効果はあまり期待できません。水分を多くとり、頻繁にうがいをして口の中を湿らせるようにするのがよいようです。精神的に緊張すると、自律神経の作用で唾液は出なくなりますので、気持ちをリラックスさせることも大切です。

■味覚異常
 舌の表面には無数の小さな突起物があります。それを舌乳頭といいますが、その付け根に味蕾(みらい)という、味を感じる組織があります。味覚はおもに舌にある味蕾で感じた刺激が、脳まで伝わって味として認識されます。
 味蕾のある舌またはその周囲に異常があったり、舌から脳に行く途中の神経あるいは脳に異常があると味覚の障害を起こします。なかには精神的なものもあります。
 原因としてもっとも多いのは、貧血による舌炎や口内炎などの粘膜の異常です。高齢になって唾液の分泌量が減少したために、味を感じとりにくくなったり、異常な味を感じるようになる場合もあります。神経の障害としては顔面神経まひが直接の原因になります。血液中の亜鉛などのミネラルの減少も、味覚障害に関係があるといわれています。
横浜市立大学医学部医学科同窓会 倶進会