胎児付属物

 胎児が子宮内で発育していくには、胎児を支えていく器官が必要です。これらを胎児付属物といい、胎盤、臍帯(さいたい)、羊水(ようすい)、卵膜などが含まれます。



■胎盤
 受精卵の外側から絨毛(じゅうもう)と呼ばれる小さな突起が草の根のように子宮内膜の中に進入し、周囲を融解し母体血の中に浮遊する状態となります。この血液の中から酸素や栄養を絨毛が取り込み胎児へと送るのです。母体血と胎児血は薄い膜で接しますがまじることはありません。
 この絨毛組織と子宮内膜の一部(脱落膜)がいっしょになって胎盤を形成します。胎盤の形成は妊娠7~8週に始まり16週に完成します。妊娠末期の胎盤は、直径約20cm、厚さ約3cm、重さ500gくらいの円盤状のかたまりです。臍帯が付着し、卵膜におおわれている側が胎児側で羊水に接し、裏側が母体側で子宮内に接しています。

□胎盤のはたらき
①ホルモンの合成分泌…妊娠維持に必要なホルモンが分泌されます。妊娠初期から、絨毛性ゴナドトロピンが多量に分泌され母体の尿中に出て、妊娠反応として検出されます。ほかにヒト胎盤性ラクトーゲンや、エストロゲン、プロゲステロンなど、妊娠の維持、分娩(ぶんべん)や授乳の準備に重要なホルモンが多量に分泌されるのです。
②栄養物質の輸送と老廃物の排泄(はいせつ)…母体血中に含まれる糖質、たんぱく質、脂質をはじめ、水分、ミネラル、ビタミンなどあらゆる栄養素は絨毛から吸収され、臍帯血管を通って胎児へ運ばれます。いっぽう、胎児の体内で生まれた尿素などの老廃物は胎盤から母体血中に排出されます。
③酸素と二酸化炭素の交換…胎児は肺で呼吸していないので、肺から酸素を取り込むことができません。母体が肺から取り入れた酸素は、母体血から絨毛の薄い膜を通って胎児の赤血球に取り込まれ胎児に供給され、胎児から生じた二酸化炭素は逆に胎児血から母体血に吸収されて母体の肺から排泄されるのです。
④その他…さまざまな酵素の産生、ウイルス以外の病原菌の通過を防ぐ作用があります。

■臍帯
 胎児のへそと胎盤をつなぐひも状の組織で、俗にいう“へその緒”です。この中には2本の動脈と1本の静脈の計3本の血管が通っており、周囲はゼラチン様の物質で包まれて保護されています。血流が途絶えたり減少したりすると胎児の状態は危険となるので、それを防ぐためと考えられます。
 分娩後は胎児側2~3cmのところをクリップでとめ切断します。数日して乾燥しひからびて児のへそから自然に取れます。これを“へその緒”として保存する習慣が日本ではあります。むかしは煎(せん)じ薬にして大病のときに服すという迷信があったための風習がいまでも残っているのです。最近では個人の特定のためのDNA鑑定に使われたこともあるようです。

■羊水
 胎児の周囲には羊水(ようすい)と呼ばれる水があり、妊娠7カ月で700mLと最多となり、妊娠末期には約500mL程度に減少します。羊水の役割は胎児を衝撃や外気温から守り、四肢を自由に動かし筋肉を発達させることです。羊水は卵膜(おもに羊膜、後述)からも産生されますが、妊娠20週を過ぎるとほとんどが胎児の尿由来となります。
 羊水中には胎児のうぶ毛、皮膚、皮脂が混入しているため、採取することにより胎児の情報を得ることができます。妊娠中の羊水検査と呼ばれるもので、染色体異常や、代謝異常などの疾患を診断することが可能です。また、胎児の肺成熟度を知るためにも使われます。
 分娩(ぶんべん)時には、羊膜に包まれた羊水が子宮口を押しひろげる役目を果たし、分娩直前には破水によって流れ出る羊水が潤滑液となって胎児が骨盤内を下降するのを助けます。

■卵膜
 胎児、羊水(ようすい)の入っている膜で、子宮内側との境目をつくる膜で胎盤の胎児側もおおっています。1枚の膜ですが3層(子宮内膜の変化した脱落膜、胎児側から発生した絨毛〈じゅうもう〉膜、胎児にもっとも近い位置にある羊膜)構造で、胎児を細菌などから守っています。羊膜がやぶれることを破水といい、破水後、胎児が子宮にいる状態で長時間経過すると胎児に細菌感染が及びやすくなります。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 産婦人科 部長 竹田 善治)