大腸がんの早期発見へ:国内初、大腸向けAI医療機器が保険診療の加算対象となるまで

昨今、人工知能(AI)などを用いたプログラム医療機器(注1)の普及が注目されています。

その中でも、AIを活用して大腸内視鏡の診断を支援するソフトウェア「EndoBRAIN-EYE®(エンドブレインアイ)」は、専門医が利用した場合、がんの初期状態であるポリープの検出率が21.6%から31.2%に向上したという臨床結果が評価され、2024年度の診療報酬改定で医療保険診療の加算対象となることが厚生労働省(以下「厚労省」)から発表されました。


大腸向けのプログラム医療機器(以下「AI医療機器」)としては、国内で初めて(注2)です。


この「EndoBRAIN-EYE」を開発したのは、昭和大学横浜市北部病院、名古屋大学、サイバネットシステム株式会社(以下、「サイバネット」)の共同チーム。

今後、AI医療機器の分野にどのようなインパクトをもたらすのか、同製品の開発に携わってきたサイバネットの医療ビジュアリゼーション部のプロジェクトメンバーに、当時の開発背景も含めて話を聞きました。


サイバネットの医療ビジュアリゼーション部のメンバー。

左から、久保田 聖、河貝 光寛、取締役 渡瀬 順平、小野 央也

AIの力で早期発見に繋げ、助かる命を増やしたい:EndoBRAINシリーズ開発へ

■「EndoBRAIN-EYE」という製品について教えてください。

河貝 大腸内視鏡検査のときに、がんの前兆となりえる病変の検出を支援するソフトウェアです。内視鏡で検査している大腸内がモニタに映し出されると、AIがリアルタイムで病変の候補を検出し、モニタ上で場所を示したり警告音を出したりして、内視鏡医の先生方をサポートします。

AIを用いた診断支援システムとして2018年に日本で初めて高度管理医療機器として承認を受けた、EndoBRAIN®シリーズの一つです。

久保田 大腸がんは、日本人女性のがん死亡数の1位、男性でも2位と増加傾向にあります(注3)。しかし、内視鏡検査などで病変を早期発見し、ステージ0やステージ1で治療を開始することができれば、5年相対生存率が90%を超える病でもあるんです。AIを使った正確な内視鏡検査を実現し、助かる命を増やしたいという、昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英教授の願いが、この製品シリーズ開発のきっかけです。

「EndoBRAIN」シリーズ

誰もが精度の高い診療を受けられる環境を願い:臨床的な効果を客観的に示せたことが成功のカギ

今回、保険診療の加算対象になったということですが、具体的に何が変わるのか教えてください。

河貝 保険診療の加算対象でない医療機器は、それを使って患者さんを診断/治療しても、その分の代金がもらえません。何百万円も払って高い医療機器を購入しても、病院側に金銭的なメリットは少ないんです。そのため、いくら性能に優れた最先端技術を持った製品でも、「この医療機器を使おう」とはなりにくいと言えます。


小野 これまでEndoBRAIN-EYEを導入していた医療機関は大きな病院であることが多く、資金力のある組織が技術力向上・先進性アピールに活用されている印象でした。ですが、2024年の6月の診療報酬の改正後からは、本製品を使った大腸内視鏡検査で腫瘍を見つけ、切除を行った医療機関に技術料が支払われるようになりました。腫瘍の切除は小規模なクリニックでも行われている手術なので、より多くの施設において、導入する経済合理性が高まったのではと考えています。


久保田 大腸内視鏡向けに限らず、国内のAI医療機全体で見ると、現在二十数種類が販売されています。しかし、その殆どが診療報酬の加算対象ではありません。今回のEndoBRAIN-EYEをきっかけに、他のAI医療機器も加算と普及が進み、誰でも精度の高い診療を受けられるような環境が増えることを期待しています。

今回の成功のキーファクターはなんだったと思いますが?

久保田 臨床的な効果を客観的に示せたことが大きいですね。主に、製品開発に携わっている昭和大学の三澤将史先生のお力です。2020年から2年かけて1,000件もの大腸内視鏡の症例を集め、EndoBRAIN-EYEの効果を実証する論文を発表していただきました。また、先生だけでなく本研究のためにご協力くださった患者の皆様にも感謝しています。


小野 論文の内容は、「専門医がEndoBRAIN-EYEを利用すると腫瘍検出率が21.6%から31.2%に上昇する」という臨床結果です。つまり、AIを併用することによって、従来よりも1.5倍近くの数の腫瘍を発見できるようになったことが示せたんです。

記者発表会でEndoBRAIN-EYEの説明を行う

昭和大学横浜市北部病院消化器センターの三澤将史 氏

はじめてだらけの申請手続きに苦戦しながらも、保険診療の加算対象へ

苦労した点などを教えてください。

小野 厚労省の審議スケジュールに合わせて申請資料を準備するのが非常にタイトで苦労しました。「これはどういう意味ですか?」とか「この数字は本当ですか?追加で証拠を出してください」のような問い合わせが、連日のようにありました。審議する側からしたら、本当に成果が認められるような製品なのか十分に調べないと許可は出せないので、当然ではあるんですけどね。


河貝 今回は厚労省の「チャレンジ申請」という制度を利用しました。この制度は、革新性の高い技術や長期的な評価を必要とする技術に対して、一度確定した保険適用区分(診療報酬)を、使用実績を踏まえて再評価してもらえる新しい仕組みです。つまり、これまでゼロ円だった診療報酬を、「これだけ良い結果が出ているので、金額を上げましょう」と検討対象にしてもらえる制度です。

が、そもそもAI医療機器自体が新しいものなので、審議する担当の方も手探り状態。双方が初めてだらけの中、出口が見えないトンネルの中を進むような道のりでした。


久保田 何事も、先駆者というのは苦労するものだと思いますが、ちょうど、国としてもAI医療を盛り上げていこうという時期で、世の中の流れに背中を押してもらった部分もあるかなと感じています。

実は今回の成果が日刊紙で紹介されたのですが、「業界の“切り込み隊長”としてサイバネットシステムの挑戦は続く」と結ばれていました。とても光栄に思っています! 

医療現場と患者さま、双方に貢献できるような製品開発を目指して

今後の目標を教えてください。

河貝 これまで培った強みを生かして医療分野の課題を見つけ、新しい製品の開発を進めたいです。医療機関側の目線に立って、医療現場で普及させやすい製品を見出すのも目標ですね。


小野 私たちと同じようにAI医療機器の開発を行いたいと考えているほかの企業ともコラボレーションするなど、さまざまな技術を合わせて相乗効果を生み出し、医療現場の負担軽減と患者の皆さまのQOL向上に役立てればと考えています。

■サイバネットは、元々医療関係の情報システムに強い会社だったのでしょうか?

久保田 サイバネットは、長年コンピュータシミュレーションやサイバーセキュリティ、AR/VRなどに関わるデジタルソリューションなどを提供している企業です。その中で、医用画像処理を行う製品の開発・薬事・保険・販売をコツコツと行ってきましたが、正直に言って、他部門に比べて派手さがない地味な部門にみえるかもしれません(苦笑)

実は、そんな我々の製品開発ストーリーが、Web小説「解体寸前?!弱小ソフトウェア開発部のAI画像診断支援 プログラム開発ものがたり」として公開されています。よろしければ、ぜひご一読ください。

そして、今後のAI医療業界の切り込み隊長としての我々の活躍にも、ぜひご期待ください!


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______________注 釈________________

注1:「プログラム医療機器」:診断や治療を支援することを目的とした、医療機器の要素を持つソフトウェアやソフトウェアが搭載された装置のこと。


注2:下記資料に基づいた自社調査による(2024年2月現在)

「令和6年度診療報酬改定に向けた医療技術の評価について(案)」令和5年度第2回診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会 議事次第 12頁(全資料内83頁)(厚生労働省 厚生労働省保険局医療課 企画法令第二係 公表資料(2024年1月15日))https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001209024.pdf

「別紙1-1 医科診療報酬点数表」中央社会保険医療協議会 総会(第584回)議事次第 (厚生労働省 厚生労働省 保険局医療課企画法令第1係 公表資料(2024年2月14日)) https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001209396.pdf


注3:国立がん研究センター発表資料『最新がん統計』(2024年2月28日更新)「がん死亡数の順位(2022年)」より

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

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__________サイバネットについて________

1985年の創業以来、物理学などの科学技術とデジタル技術の両面に精通した技術者集団として、製造業の研究・開発・設計部門や大学・政府の研究機関を中心に、コンピュータシミュレーションやサイバーセキュリティ、AR/VR、医用画像処理などに関わるデジタルソリューションおよび技術コンサルティングサービスを提供しています。

近年は、CAE、MBD、MBSEを中心とした製造業におけるエンジニアリングチェーンの革新に加え、PLMやIoTを活用したサプライチェーンの高度化に関わる分野にもソリューションの提供範囲を拡大しています。また、サイバーセキュリティ分野では、最新の脅威に対応した先端的なソリューションを複合的に提供できる体制を構築してきました。さらに、AIを活用したプログラム医療機器の分野において国内で初めての医療機器承認ならびに公的医療保険の適用を受けるなど、医療AIのパイオニアとして業界をリードしています。

サイバネットシステム株式会社に関する詳しい情報については、下記Webサイトをご覧ください。

https://www.cybernet.co.jp/






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