Dr.純子のメディカルサロン
発達障害の子も生き生きと
~キリフリ自然学校の金井代表に聞く~
夕食作りに挑戦
◇きらりと光る資質を見つける
海原 絵本の主人公のあゆくんは、自然学校の活動をしているときに捨て猫を見つけ、必死に守ろうとしました。生き物に対する優しさや繊細さという素晴らしい資質をお母さんが感じたことで、あゆくんとの心の絆が生まれました。物事が好転する転機になったわけですが、キリフリ自然学校の中で「その子の持つ素晴らしさやきらりと光る部分」を見つけたことなどを教えてください。
金井 おうちではきょうだいげんかが絶えない子でも、自然の中で活動していると年下の子のサポートをしたり、急な斜面で手を差し伸べたりするシーンが見られます。これは「サポートしなさい」「手を差し伸べなさい」と言った指示・命令をしたのではなく、自然にそうなったのです。本能的な行動とでも言うのでしょうか。そういうところにきらりと光る部分を感じます。本来はとても優しく、よく人のことを考えている。非日常だからこそ見られる部分であり、実は本人も初めて気づくことかもしれません。また、そうしたきらりと光る資質を親が理解することで親自身が変わっていく場合も多いんです。家庭環境自体が変化していくことがうれしいです。
代表の金井聡さん
海原 夢中になれるものを見つけるのは、子どもでなくとも人生の中で幸せを見つけるヒントになると思います。今は夢中になれるものが見つからない人が多いのですが、どうやって見つけるのがいいとお思いでしょうか。
金井 夢中になれるものが見つからないというのは、日本社会の由々しき問題ですね。とにかくたくさんのさまざまな体験をするしかないのではないかと思います。できれば一緒になって夢中になれる人がいるといいと思います。もしくは、何かに夢中になっている人のそばにいること、そんな人を見ていることです。活動している中でも、何をしていいのか、どんな遊びをしていいのか分からない子どもがいます。「ひまー」と連呼している子も。そんな子には無理に何かを与えたり教えたりしないで、夢中になっているところを見せるようにしています。木をナイフで削る姿やひたすらたき火をする姿などです。そうすると、徐々に「これやってみようかな」「一緒にやろう」という具合になっていきます。
日の出に感激
◇今後は冒険的プログラムや対話も
海原 今後の活動予定についても教えてください。
金井 今年は、より冒険的なプログラムを考えています。例えば、日光の山から海までバックパックを背負って歩くチャレンジです。個人としてのチャレンジと同時にチームとしてのチャレンジをすることで「葛藤」が生まれます。その葛藤こそが成長や学びの種になります。一緒に歩く大人がその種に栄養を与えれば、ゴールした時に花開く何かがあると信じています。
これまでの活動とは別に、「対話」という体験の場もつくっていきます。相手の話を理解し、自ら考え、思考を整理し、言葉に変換して表現する。そんな「こどもかいぎ」を定期的・継続的に開催していきたいと思っています。そのためにも、まずは大人が本音で話し、じっくり聴く体験をすべきだと思い、「おとなかいぎ」の開催を予定しています。これは、映画「こどもかいぎ」自主上映会とセットで実施する予定です。(了)
〔取材後記〕
発達障害と診断されて学校になじめなかったあゆくんは、自然の中で伸び伸びと過ごす中で自分の居場所を見つけました。そして、キャンプを通してものづくりをすることや、迷子の猫を見つけて保護し育てる中で、自分が夢中になれることを見つけていきました。その結果、学校でもものづくりなどを通じて周囲から一目置かれたりし、「自分は自分でいいんだ」という自己肯定感を持てるようになりました。周りに合わせることばかりに目が行きがちな昨今の環境ですが、子ども一人ひとりのいい部分を見つけて磨くことが、その子だけでなくみんなのウェルビーイングにつながるのだと思いました。
金井聡(かない・さとし)
1976年生まれ。学生時代に山登りに夢中になり、卒業後は自然体験活動のプロを目指す。都内の団体で修行・就職した後に日光市に移住し、キリフリ自然学校を主宰。2児の父。
キリフリ自然学校代表、認定NPO法人だいじょうぶ理事。
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(2024/02/02 05:00)
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