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世界希少・難治性疾患の日(2月28日)が10回目を迎え、日本でも各地でさまざまな取り組みが行われた。東京都内で開かれた講演会では、筋力が低下する「遠位型ミオパチー」という難病とともに10年以上の人生を歩んできた織田友理子さんが「すべての患者が、根治可能だという希望を失わない未来を描きたい」と発言。筋ジストロフィーなどの難病の専門医は、患者の平均死亡年齢の上昇と今後の課題について報告した。
難病患者への理解と支援を訴えるイベント=2月22日、東京・代々木公園
◇進行する神経節疾患
神経節疾患は発症する部位により病名が異なる。脊髄前角であれば脊髄性筋萎縮症、末梢(まっしょう)神経なら遺伝性ニューロパチー、ギランバレー症候群。神経筋接合部の場合は筋無力症、骨格筋だと、ミオパチーと筋ジストロフィーとなる。
国立精神・神経医療研究センターの小牧宏文トランスレーショナル・メディカルセンター長は「共通しているのは、筋力低下で多くは進行性だ。さらに多くは遺伝子変異に由来する。重要な点はほぼすべてが希少疾病、難病であることだ」と話した。
講演する国立精神・神経医療研究センターの小牧宏文トランスレーショナル・メディカルセンター長
◇ヘッドギアに驚き
1991年、小児科医の2年目で国立西別府病院に勤務していた時に衝撃を受ける。入院していた筋ジストロフィーの6歳から20数歳までの若い患者たちが、歩行具とヘッドギアを装着していたからだ。
ヘッドギアは誤って転倒したときに、けがを防ぐためのものだった。小牧氏は「医学の教科書にはこの病気のことは10行くらしか書いていなかった。本当にびっくりした」と振り返った。
◇全身疾患の筋ジストロフィー
筋ジストロフィーは、筋肉が壊れ、再生がうまくいかない病気だ。筋肉が減るとともに、筋肉が繊維化し「筋」のように細く、固くなってしまう。典型的な兆候に「ガワーズ」といわれる、起き上がるのに相当な苦労を伴う状態がある。
小牧氏は筋ジストロフィーについて「全身性疾患だ」と強調した。骨格筋や呼吸筋、心筋、平滑筋、そしゃく・嚥下(えんげ)筋などへの悪影響に加え、骨粗しょう症や骨格変形を招く。まさに難病だが、専門医や支援団体関係者らの努力により治療は進歩してきた。
◇「先回りの医療」が大事
「デュシェンヌ型」と呼ばれる筋ジストロフィーの患者はかつて20歳まで生きることができなかった。しかし、平均死亡年齢は1982年には20歳を超え、2001年に20代後半に、2006年には30歳に達した。小牧氏は「現在は、平均で30数歳になった」と話した。
今後のキーワードの一つになるのがプロアクティブケア(先回りの医療)。「重要なのは疾患の経過(自然歴)に関する情報で、自然歴を踏まえて定期検査、ケアを積み重ねていく姿勢がプロアクティブケアだ」と説明した。
さらに、難しいとされる小児期から成人期の移行治療を支える多職種の連携や、患者数が少ないことからさまざまなハードルが存在する医薬品開発におけるデータの集積・分析の重要性にも言及した。
NPO法人PADM(遠位型ミオパチー患者会)代表の織田友理子さん
◇10年以上前から車椅子に
NPO法人PADM(遠位型ミオパチー患者会)代表を務める織田さんは、大学時代の2002年にこの病気だと診断された。友人たちと同じ速さで歩けない。電車やバスの乗り降りが怖い。1日に1回は転んでしまう。「おかしい」と思った父親から勧められ受診した。告げられたのは、聞いたこともない病名だった。
遠位型ミオパチーは進行性筋疾患で、歩行困難から車椅子、やがて寝たきりになるといった経過をたどる。日本の患者数は約400人だ。織田さんも車椅子での生活を送るようになってから10年以上がたつ。
「中学、高校と部活動に熱中しました。それが今では一歩も歩けず、歩く感覚を忘れてしまった。極めてまれな難病は自分自身に突きつけられないと、身近に感じられないと思います」
◇難病患者の薬はぜいたく品!?
ある時、マウス実験で治療に有効な物質が見つかったという朗報が飛び込んだ。製薬会社を回ったが、反応は冷たかった。背景には、多額な開発費がかかるの対して患者が少なく、収益が見込めないという事情がある。
「希少疾患の患者のための薬はぜいたく品ですよ」。その言葉が織田さんの胸に突き刺さった。それなら、患者自身が声を上げるしかない。患者会の発起人の一人として参加、国内外の実地調査に基づく「車椅子ウォーカー」をユーチューブで発信するなど、精力的に活動してきた。
◇人は一人では生きられない
「今の私は介助なしでは生きることができない。けれど、それは目に見えて分かりやすいだけで、世の中に一人だけの力で生きている人は誰もいません」。織田さんはこう述べた上で、「今の私が一人できることは、話すことです」と力を込めた。(鈴木豊)
(2019/03/31 11:00)
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