2024/12/18 05:00
冬の気分低下どう乗り切る?
~少し速足で歩くと気分前向きに~
30代で幸せな結婚をして、「さあ、子どもが欲しいから健康診断」と思い、婦人科を受診したら、いきなり「すぐ手術が必要。人工肛門になるかもしれない」と言われたらどんなにショックでしょう。
明るい中島さん
中島小百合さん。英語の同時通訳や翻訳で活躍する、明るい笑顔の女性から「私、ストーマ(人工肛門)なので」と告げられた時は、ちょっと信じられない気持ちがしました。
そして、思い切って取材を申し込みました。
中島さんを知ったのは、海外からの一流ボーカリストが行うワークショップです。そこで見事な通訳をしていたのが中島さん。米国ボストンにあるバークリー音楽大学を卒業した後、雑誌の企画で管楽器を演奏し、専門学校で歌を教え、ブラスバンドの指導やボーカルでのステージ活動、数々の翻訳や通訳をしていました。みんなが「ユリ先生」と呼ぶ中島さんの第一印象は、きれいで、元気で、スタイルがよくて、英語がネイティブで、とにかく明るい方というものでした。
◇不調でも病気に気付かず
海原 私、最初にストーマと聞いた時、「まさか」と思いました。
中島 2015年に結婚をして、子どものことも考えて、検査をしておこうと思い、婦人科クリニックを受診しました。そうしたら、「筋腫と子宮内膜症がありますから、すぐ大きな病院に行ってください」と言われたんです。
それで、近所の大学病院に行ったら、「これはかなりひどいので、うちでは無理です。子宮内膜症がかなり大きくなっているから、消化器外科と婦人科がある病院に行ってください」と言われ、別の大学病院を受診しました。
CT(コンピューター断層撮影装置)や超音波で検査をしたら、内膜症が腸に癒着していて、「これはもう手術で人工肛門になるかもしれない」と言われました。
ステージに立つ中島さん
海原 それはショックですね。
中島 びっくりしました。いきなり人工肛門と言われて。もう行けなくなるからと、夫と温泉に行ったり、ディズニ―ランドに行ったりして。
海原 それまで症状はなかったのですか。
中島 生理痛はありましたが、生理痛だしと思い、鎮痛剤で抑えていて。ただ、便が細くなっていて、便秘がひどくなり、お尻にイボまでできてしまって。病院を受診して、処置をしてもらっていました。
痔は何回か、便秘がひどくて、繰り返し受診して、処置しました。今思えば、腸管内膜症の癒着で、腸の通りが悪くなっていたのが原因だったわけですが、その時は、病院でも「またですね」くらいで終わっていました。
そのうち、生理痛もだんだんひどくなって、鎮痛剤を飲んでも、動けないくらいになり、夫に「それはちょっとひどくない?」と言われて。
海原 ずいぶん我慢してしまったんですね。
中島 そうですね。でも、この年代(30代半ば)の女性は、仕事ができるようになってきて、なかなか仕事を休めなくて、検査に行くのが遅れてしまう傾向はありますね。
私がこういう病気になったから、女子高時代の同級生が何人か、自分も検査しようという気になって受診して、数人は筋腫が見つかったりしました。
◇12時間に及んだ手術
海原 子宮内膜症は、子宮の内膜が子宮の筋層や卵巣、腸、腹膜にできるために、そこで生理時に出血してしまうんですよね。出血が外に出られなくて、腹腔内にたまり、腸や腹膜が癒着するんですね。よく腸閉塞を起こさなかったですね。
中島 腸閉塞の一歩手前でした。便も出にくくなっていて。私の場合は、腹膜や腸の癒着を剥がして、腸の一部を切り取る手術で、12時間かかりました。執刀した先生が「これまでの手術で一番大変でした」と。
海原 手術をして、そのショックをどうやって乗り越えたんですか。
中島 手術の前までは、先生から「なるべく人工肛門にするのは避けます」ということで、何とかなるかなと思っていたんですね。
人工肛門だと分かったのは、ICU(集中治療室)から出て「人工肛門になりました」と言われてですが、その時はショックというより、術後、調子が悪かったので、考える余裕がなかったんです。
術後、腸閉塞にもなり、ショックというより、「困ったなあ」というような感じで。「これから仕事をどうしよう」とか、「結婚したばかりで夫に悪いなあ」とか。ただ、それからしばらくストーマの扱いに慣れなかったりして。
雑誌の表紙を飾った中島さん(右)
海原 日常生活がこれまでのようにいかないですよね。
中島 外出の時に臭いが漏れたりしないかとか。あと、今の時期、お花見などがきついんです。トイレがどこにあるか分からなかったり、簡易トイレが並んでいたりすると、間に合わなかったらどうしようと不安になります。
あと、花火やバーベキューも苦労します。困るのは、ジャズのライブです。トイレが少なくて、並んでますよね。
コンサートもちょっと大変で。オストメイト(ストーマを装着した人)用のトイレに入ろうとして、おじいちゃんににらまれちゃうこともあって。「若い女が」なんて言われたりします。
海原 元気そうに見えますからね。
中島 なので、なるべくオストメイト用のトイレは、使わないんです。逆に、オストメイトが必要に見えないことは、それはそれでいいと思っています。
私は、ストーマがあることは、隠すつもりは全くないんですが、ストーマだということを言い訳にして、仕事をしているようにはなりたくないんです。ストーマがあっても、日常を楽しく生きられる、ということができればいいと思っています。
◇漏えい事故はアイデンティティーの危機
中島 海外ではストーマのある人の非公開グループのフェイスブックがあって、みんな、かなりあっけらかんとした交流があるんです。アジア人は、ストーマというと、暗くなることが多いんですが。
例えば、ちょっと元気がなくなった人が「みんな、どこから来たの?」なんて投稿すると、「私はマサチューセッツからよ」なんて、600件以上の反応があるんです。
オストメイトは、みんな一度は漏れてしまって、漏えい事故みたいなのを起こすんです。そんな時、「あ、大変だ」と分かってくれるのは、同じ体験をした人しかいないんですよね。
そんな時、トイレで泣いてしまったとか。女性にとって、これはおむつをしているようなものなんです。
便が漏れるって、すごくショックで。女性としてのアイデンティティーの危機みたいな感じなんです。「命が助かったから(いいじゃない)」と軽く言われると、心の置き場に困ることがあります。
ブログに写真を掲載した人工肛門の模型。人工肛門のことを多くの人に知ってもらおうと自作した
海原 ストーマって、知らない人が多いですよね。
中島 そうなんです。人工肛門というと、「お尻からなんか出てるんですか」と言う人もいたりして。それで、自分のブログで「ストーマってこんなものですよ」と模型を作って載せたりしたこともあります(https://komabaonan.com/nobagsnolife)。
◇自分がしたいことで人が喜んでくれる
海原 その模型作りの技術は、今に生きてますね。ユーチューブで配信している「英語発音チューニング体操」の中でアメリカ英語に必要な口の開き方や、舌の動きを模型で解説してますよね。
あの英語発音講座は、これまでの英語の発音講座と全く違うアプローチですね。舌や顎のリラックスから始まる体操をしながら発音するという画期的な講座です。
昨年8月にスタート。毎朝6時半からですが、なぜ、朝の6時半なんですか。
中島 ラジオ体操って、夏休みの朝6時半ですよね。8月1日スタートだから、朝にしようかな、と。体のこともあり、早起きの方が体調がいいかも、と朝5時15分に起きるようにしてみました。
自分の生活リズムのコントロールのために、早起きしようと思いました。自分の体調と、自分のできることを考えて。身体によくて、自分ができること、自分がしたいことで、しかも人が喜んでくれる、そのバランスを探して、うまくバランスが取れるものが見つかりました。
海原 でも、そのバランスって、一度壁にぶつかり、壊れないと分からないものですよね。
中島 そうそう。しかも、一度壊すくらいのエネルギーのある人でないと、見つからない、ということもありますよね。
最近はオンラインレッスンも多いそう
◇人と比べないために情報遮断したことも
海原 とはいえ、なぜ自分がとか、思うことはありませんか。
中島 ありますよ。でも、そこで立ち止まると、さらに悲しくなるので、そうならないために、人や手術前の自分と比べないようにしています。
バークリーの同級生は、業界の第一線で仕事をしている人も多くて、そういう人と比べようとすると、つらくなると思います。だから、自分とだけ比べるんです。手術直後に出来なかったことが今はできる、というように。
そうでないと、暗い方に引っ張られてしまう。でも、私は決して、いつも前向きじゃないです。いつも前向きにはなれないけど、地に足の着いた生き方をしたいと思っています。
海原 人と比べることで落ち込む人はすごく多いんですが、ユリ流の人と比べないためのいい方法はありますか。
中島 私の場合は、2年間フェイスブックを一切しないという時期がありました。情報遮断というのも一つの方法ですね。ただ最近、ユーチューブで発音講座を配信していると、「こんな翻訳してくれない」とか、頼まれることも増えて、人との関わりもいい感じで増えましたね。
取材後記:英語の発音がビジネスの場でも重要視されつつある中、ネイティブイングリッシュの本の企画もお持ちのユリさんの活動が広がりそうです。ストーマがあることを隠すつもりはない、でも、そういう人というレッテルで仕事をしたくない、という気持ちは非常によく分かります。暗くはならない。でも、無理に前向きになることもないという生き方。人とは比較せず、自分とだけ向き合い、自分ができることをし、人も喜ぶ生き方を見つけた、そのエネルギーに共感した取材でした。
(2019/04/09 06:00)
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