音楽家のジストニア
~外科手術の選択肢も(東京女子医科大病院 堀澤士朗助教)~
ジストニアは無意識に体が動いてしまう不随意運動で、脳の過剰活動が原因だと考えられている。音楽家がジストニアになると手の筋肉が勝手にこわばり、楽器の演奏に支障が生じる。東京女子医科大病院脳神経外科(東京都新宿区)の堀澤士朗助教に治療法について聞いた。

音楽家の深刻な悩みに
◇自然には治癒せず
ジストニアは局所性、全身性など、発症部位によって分類される。音楽家で問題になるジストニアは局所性ジストニアの一つで、例えば、ギター奏者が特定の音を弾くときに指が弦を押さえられなくなるなどの症状がある。
堀澤助教によると、同じ動作を繰り返すことによって脳に誤ったプログラムができてしまうのが要因と考えられ、20~30代での発症が多いという。海外の研究で、ジストニアはプロの音楽家の1%に見られ、音楽家のジストニアは全ジストニアの5%を占めるなどと報告されている。
「ジストニアは自然に治癒することはなく、特にプロの音楽家にとっては深刻な疾患です」と堀澤助教は指摘する。
◇患部を熱で凝固
治癒は難しいものの、一般的な治療には筋肉のこわばりを取る内服薬や注射などによる薬物療法、リハビリなどがある。
他の治療法として定位脳手術も。脳深部にある筋肉の緊張をコントロールする部位に電極を挿入し、筋肉のこわばりを緩和するもの。持続的に電気刺激を行う「脳深部刺激療法」と熱を加えて患部を凝固させる「凝固術」がある。
脳深部刺激療法は、脳内に電流を流すデバイスを体内に埋め込むため、バッテリー交換時には手術が必要になる。凝固術は1回の手術で治療が完結するが、凝固した部分は元には戻らず、筋肉の緊張が取れたままの状態になる。
同科では7年前、皮膚を切らずに体外から超音波を集中的に当てて患部を熱凝固させる「集束超音波治療」の臨床試験を、音楽家を含む手のジストニア患者を対象に実施。今年、治療法としての精度を高める目的で治験を実施する予定だ。
堀澤助教は「ジストニアは認知度の低い疾患であり、心の問題だとしてメンタルトレーニングを勧められるケースも少なくありません。手のこわばりなど気になる症状がある場合は、神経内科などに受診を」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/07/16 05:00)
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