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ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)に感染している人の一部に発症する「HTLV―1関連脊髄症(HAM)」は、進行性の両下肢まひなどが起こる神経疾患だ。1986年に初めて報告された難病だが、病気が周知されていないため、患者の負担は大きく、不安を抱えながら生活している。聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)脳神経内科の山野嘉久教授は「患者会や社会的な支援をうまく活用して療養生活を送ってほしい」と話す。
さまざまな症状が表れる
▽排尿障害や脚のまひ
HTLV―1の感染者は、2008年の調査で国内に約108万人とされ、HAMが発症するのはこのうちの約0.3%だという。体内の免疫を監視するT細胞がHTLV―1に感染し、脊髄内で慢性的な炎症を起こすが、発症のきっかけは分かっていない。山野教授は「40歳以降の女性に多く、一般的なHTLV―1感染者に比べて血液中のウイルス量が多い人やウイルスに対する反応が強い人、特定の白血球の型を持つ人はHAMを発症しやすいことが分かっています」と説明する。
炎症により脊髄を通る神経細胞に傷が付くと、さまざまな神経症状が表れる。初期は夜間の頻尿で始まることが多い。進行すると、尿が漏れたり出にくくなったりする。脚に力が入らない、つまずくなどの症状も見られ、次第に脚が突っ張って動かしにくくなる。他には便秘や、脚がじんじんとしびれる感覚障害などもある。
進行には個人差があり、発症して1年ほどで車椅子が必要になる人もいれば、40年たってもつえ無しで歩ける人もいる。「脊髄の炎症が強いほど進行しやすいため、早期診断と早期治療が特に重要です」と山野教授。しかし、病気自体が知られていないため診断までに約7年を要しているという。
▽患者会の活用も
HAMは、血液検査と背骨の間に針を刺して髄液を採取する髄液検査で、HTLV―1の感染や抗体の有無、炎症の度合いなどから判定する。治療は炎症の強さにより、ステロイドの大量点滴や服薬を行うが、新しい薬の研究も進んでいるという。軽度の場合は対症療法となる。筋力低下を防ぐ積極的なリハビリテーションも必要だ。
HTLV―1の主な感染経路は、母子感染や性感染だが、10年から妊婦健診のウイルスチェックが始まり、母子感染は抑えられている。性感染防止には、男性用避妊具の使用が有効だとされる。
山野教授は「いくつかの患者会があり、情報提供や交流を図っています。ぜひ積極的に参加してみてください。また、HTLV―1は空気感染や遺伝はしないので、正しく理解し、差別や偏見をしないでください」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/01/10 05:00)
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