一流のレジリエンス~回復力~Dr.純子のメディカルサロン

入退院を繰り返して8年 それでも自分らしく生きる
悪性リンパ腫の治療生活を送る瀬古昴さん

 「ホジキンリンパ腫」という病名を聞いたことがあるでしょうか。悪性リンパ腫の一種で、リンパ球の中に巨大なリード・ステルンベルグ細胞が増えることが特徴とされています。

 実は、私が医学の学位を取った博士論文のテーマは、この細胞の由来を免疫組織化学で調べるというものでした。当時、ホジキンリンパ腫が重症化することは、極めてまれだったのです。

 ですから、元マラソン選手の瀬古利彦さんを父に持つ昴さんから、ホジキンリンパ種の腫瘍細胞が脳に転移したり、胸椎や腰椎の中に増殖したということを聞いた時には、本当に驚きました。

瀬古昴さん(岡部文さん撮影)【時事通信社】

 昴さんに自覚症状が出たのは、8年前の2012年だそうです。結節硬化型の古典的ホジキンリンパ腫だと診断されて以来、化学療法、骨髄移植、放射線治療と、本当にあらゆる治療をしてきたという感じがします。

 私が昴さんと出会ったのは4年ほど前。かなり体調が良くなり、オプシーボの治療を開始した頃でした。

 「そろそろ寛解かな」と思って、みんなで一緒に食事をしたり、私の仕事のウェブサイトの手伝いを頼んだり、アサーティブ講座という社会人講座のファシリエータ―をお願いしたりしました。

 でも、その後、また腰椎や胸椎に腫瘍が増殖して、新しい治療が必要になって入院となりました。

 ホジキンリンパ種の診断を受けてから、骨髄移植、放射線療法などの治療を受け、何度も命の危機をくぐり抜けてきた昴さんから、お話を伺いました。

 ◆「脳への転移はショックでした」

 海原 「これで寛解か」と思うと、また入院ということが何度もありました。そういう状況を、どうしてそんなに自然に受け入れられるのか、教えてもらえますか。

 昴 12年に胸の痛みと、せきが止まらなくなったのが、最初の症状でした。それから8年、かなりいろいろな治療をやってきました。周りからは「自然に受け入れている」と見えるかもしれませんが、そうでもないです(笑)。

 最初の数年は完全寛解(病気が画像検査上見えなくなること)を目指して、厳しい治療をしましたが、何度治療をしても、完全寛解は一度も得られず、検査で病気が進行していることが分かるたびに、「またか…」という感じでした。

 ただ、オプジーボを使い始めた後は、完全寛解を目指すよりも、副作用と付き合いながら、病気との共存を目指す方向に、僕も主治医も家族も、徐々にシフトしてきたので、ある程度の増悪は、ある意味で織り込み済みになっているという感じです。

 ただ、今年は、想像を超えてきました。年初に脳への転移で、放射線治療をしました。

 昨年末から激しい頭痛に悩まされていたのですが、MRI(磁気共鳴画像装置)検査をしたら、脳に腫瘍があることが分かり…。ホジキンリンパ腫は脳への転移がまれなので、僕自身も想定していなく、ショックでした。

 人生に、こんなことがあるのか、と。そして、放射線治療を1カ月ほど行いましたが、最初の6日間は吐き気、めまいで、ベッドから起き上がれないほど。激烈に辛かったです。

 海原 脳への転移というのは、私も聞いたことがないです。

 昴 血液内科の先生方も、誰も想定していませんでしたし、放射線科の先生も、治療の回数を決めるのに論文が2、3本しか見つからなかったと言っていました。

 夏には、肺にカビが生えてしまい、3カ月入院。せきとたんに苦しみ続け、抗生剤も抗真菌薬も、なかなか効かず、諸事情でコロナ病棟に入ってしまったり。

 先が見えない中で、正直「死んだ方がマシ」「今夜寝たら、もう目覚めたくない」などと思っていました。うつ病直前だったかもしれません。

 それが終わったと思ったら、首のリンパ節がどんどん腫れてきて、再び放射線治療。これはスムーズに治療が進み、10月末には退院できましたが。

 喜ぶのも、つかの間、11月には肺のカビが再発し、現在もせきとたんと付き合いながら、自宅で治療中という感じです。

 東京オリンピックは延期になりましたが、僕の2020年は、オリンピック状態になってしまいました。早く閉幕してほしいです(笑)。

 今年は治療8年目になりますが、「死にたい」と思ったり、心が折れかけるのを感じたのは、初めてでした。特に、この夏の肺炎で、治療をしても全く効果がない、先が見えず、ただ苦しい日々が続くだけ…という状態が、かなり精神的にダメージでした。

 それを乗り越えられたのは、母が叱咤(しった)と激励をくれていたこともありますが、自分の運命とか、人生の大きな流れを、どこか信じているところがありまして。

 今は苦しくても、最終的には、必ず良い場所に連れて行ってくれる。良い状況になる。そう信じて、乗り越えているところがあります。

祖母(右)と一緒に(昴さん提供)【時事通信社】


 ◆ユーモアの力

 海原 昴さんの「きゅうり日記」というブログ、面白いです。おばあさまとの会話が何か、とても笑えるんです。

  86歳の祖母がいまして、10年くらい前から認知症なんですけれど、以前と比べると、よく笑うようになり、本当に幸せそうなんです。

 以前は、小さいことを気にするタイプだったのですが、忘却の効用とでも言うのでしょうかね。そんな祖母との会話をブログやインスタグラムに投稿しています。

 祖母はとにかく、何でもすぐ忘れるので、クイズを出すと、予想外の答えが帰ってきたりして、ツッコミがいがあり、とにかく笑えるんです。それをブログに書いていました。

 確か、16年の米大統領選の時は、「ヒ」が付く候補者(ヒラリー)は誰か、というクイズを出して、「ヒンディー」だの「卑弥呼」だのと答えてきたり。

 対抗の「トラ」が付く人(トランプ)は誰か、と聞いたら、「トラウマ」だの、「トラジディー」だの、「寅次郎」だのと答えてきて。それにツッコミを入れつつ、僕も爆笑しました。

 海原 ユーモアは病気を乗り切るのに非常に有効というデータがあるんですよね。おばあさまとのこうした会話は、昴さんにとって、どんな時間なんですか。

  祖母との会話は、僕にとって宝物のようなもので、この治療生活8年の間、どれだけ笑顔をもらって、癒やされたか分かりません。家族みんなが祖母から笑顔をもらっています。

 入院している時も、1日に3、4回は祖母に電話をしていました(笑)。祖母は毎回、忘れるので、「久しぶりね」みたいなリアクションを取るんですけど。顔を笑顔にすると、幸せになるホルモンが出るとも言いますしね。


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