2024/12/04 05:00
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私はよく、わが子と一緒に近所の図書館に遊びに行きます。読書が大好きな子どもたちは、上限の15冊まで毎回、熱心に本を選びます。それを横目に、私は医療本コーナーに行き、そこに陳列された本を見て、複雑な気持ちになっています。
「〇〇を食べたらがんが消えた」
「がんを克服した私がやっていた秘密の〇〇」
体験談に要注意。同じ病気にかかっても、他人の体験が自分に当てはまるとは限らない【時事通信社】
「余命○カ月からの生還」
こういうタイトルの本が所狭しと本棚を埋め尽くしています。
なぜ「複雑な気持ち」になるのでしょうか?
こうした本を何十冊と読んで「知識」を得た患者さんが、一日中、野菜ジュースを作り続けて精神をすり減らしたり、必死で断食して病気を悪化させたり、本当に必要な抗がん剤治療をやめてしまったりするのを、私は見てきたからです。
◆体験談には要注意
病気について調べたいとき、注意すべきなのが「体験談」です。
たとえ同じ病気にかかっていても、体の状態や病気の進行度合いは全く異なります。他人の体験が自分に当てはまるとは限りません。
特に「がん」は全く異なる病気の総称です。病名が同じ「がん」でも、必要な治療や「どのくらい生きられるか」は、本当に多種多様です。
また、何かが「病気に効くかどうか」を知りたいとき、その根拠になるのは「誰か一人の体験」ではありません。
ある成分の「効果」を証明するには、数百、数千人規模で厳密に計画された臨床試験を行わなければならないからです。こうした試験の結果が科学的根拠として蓄積したとき、ようやく病気への効果が示されたことになるのです。
むろん、このような「成分」が見つかれば、病院で「保険のきく治療」として提供されることでしょう。それほど有望な「治療」が医療本にしか載っていないなどということは、あり得ません。
◆知りたいのは個人の体験だが
一方で、病気にかかった患者さんが、まず知りたいと思うのは、他でもない「同じ病気の人の体験談」である、というのも重要な事実です。
何百、何千という「見知らぬ誰か」のデータは、当事者にとって説得力を持ちません。未体験の不安を抱えた患者さんが頼りにしたいのは、「一足先に同じ不安を体験した誰か」だからです。
病気を告知されると、さまざまな不安が去来します。
「私の病気はどのくらい重いのか」
「いつ病気は治るのか」
「仕事は続けられるのか」
「家族にはどう伝えればいいのか」
そんなとき、よりどころになるのは、「姿形の見える誰か」なのです。
そこで重要なのは、体験談を上手に利用することです。
「治療」や「予防」のような医学的な情報は一歩、引いて見る一方、社会生活に関わる情報については参考にする、といった心掛けがあるとよいかもしれません。
医療本コーナーの本棚の前で立ち尽くす前に、ここに書いたことを、ぜひ思い出していただければ幸いです。
(2021/04/07 05:00)
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