教えて!けいゆう先生

医師に症状をうまく説明する方法
「変化」を伝える大切さ(外科医・山本健人)

 病院に行って自分の症状を医師に伝えるとき、どんなことを意識していますか?

 多くの方は、「今どんな症状で、どんなふうに困っているか」を伝えたい、と強く思うのではないでしょうか。

 確かに、受診した「その瞬間」の状態をうまく表現することは大切です。

 しかし、それと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが、「それまでに症状がどう変化してきたか」です。

今どんな状態かと合わせて、それまでに症状がどう変化してきたかを伝えよう

今どんな状態かと合わせて、それまでに症状がどう変化してきたかを伝えよう

 ◇症状の変化を伝えること

 症状を表現するときは、「いつから」「何時間(あるいは何日、何カ月)かけて」「どんなふうに」症状が変化したかが極めて大切です。

 例えば、「おなかが痛い」という症状があったとき、多くの患者さんは、とにかく「いかに痛いか」や「どこが痛いか」を説明したいと考えがちです。

 もちろん、痛みの部位や程度も大切な情報ではあります。しかし同時に、いつ痛みが発生し、どのくらいかけて悪くなったのか、あるいは良くなっているのか、それとも「良くなったり悪くなったり」を繰り返しているのか、を医師は知りたいと考えます。

 それによって、想定する病気や、必要と考える検査も変わってくるからです。

 同じことは、熱が出ているときにも言えます。

 「ある瞬間の体温が何度だったか」と同じくらい、あるいはそれ以上に「体温がどんなふうに変化しているか」は大切です。医療現場では、体温の変化のパターンのことを「熱型」と呼び、診断のための重要な情報として扱います。

 ◇静止画よりも動画のイメージ

 このことを患者さんに説明するとき、私はよく「静止画」と「動画」という言葉を使います。

 例えば、ダンスをしている人をカメラで撮影した静止画だけを見ても、「ダンスをしている」という事実は分かりますが、「どんなダンスか」や「どれほど上手なダンスか」は分からないでしょう。

 一方、動画を見れば、こうした情報は一目瞭然で伝わります。

 症状に関する説明も、これと同じです。

 ある瞬間の「静止画」を伝えるだけでなく、「動画」として連続的な変化を伝えることが大切なのです。

 ◇検査結果の解釈も同じ

 「変化」が大切なのは、症状だけでなく、検査の値も同じです。

 ある単一の検査結果だけでなく、その結果がどんなふうに変化してきたかを知ることも非常に大切です。

 例えば、血液検査で腎臓の数値が悪いことが分かったとします。このときに医師が知りたいと思うのは、「その方が以前血液検査を受けたことがあるか」と、受けたことがあるなら「その時の腎臓の数値はどうだったか」です。

 「以前から悪い状態が続いている」のと、「急に悪くなった」のとでは、医学的な意味は全く異なるからです。

 病気の診断には、こうした数値の推移を知ることがとても大切です。

 つらい症状で困っているときほど、その状態を医師にうまく説明しづらい、と感じることが多いでしょう。ここに書いたことを頭の片隅に入れておくと、少し落ち着いて受診できるのではないでしょうか。(了)


山本健人氏

山本健人氏

 ◇山本 健人(やまもと・たけひと)氏
 2010年、京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設2年で800万PV超を記録。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。
 外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方(幻冬舎)』など多数。当サイト連載『教えて!けいゆう先生』をもとに大幅加筆・再編集した新著『患者の心得ー高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと(時事通信社)』は2020年10月下旬発売。

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