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4月から公的保険が適用されたことで、不妊治療をめぐる状況に変化が起きた。妊娠・出産を切望する人たちにとって経済的な負担が減ったというメリットは大きい。専門医は患者の負担減に加え、「保険適用により不妊治療の『標準化』が進むことにも意義がある」と指摘する。
顕微鏡で卵子を確認する胚培養士=医療法人オーク会提供
◇採卵、3割増
主な不妊治療には、①最も妊娠しやすい時期に夫婦が性交渉を持つタイミング法②人工授精③体外受精―などがある。
保険適用となったのは、一般不妊治療であるタイミング法と人工授精、生殖補助医療である体外受精と顕微授精、受精卵・胚培養、胚凍結保存、胚移植などだ。治療開始時の女性が43歳未満という年齢制限があり、回数についても40歳未満は1子当たり通算6回、40~42歳は1子当たり通算3回までとされている。
採卵の年齢別割合(3月と4月)=医療法人オーク会提供
不妊治療を専門とするクリニック・グループ医療法人オーク会では、4月に採卵(体外受精、顕微授精の際に実施する治療)を行った患者は保険適用前の3月と比べて29.4%増えた。採卵率は31~42歳で上昇。36~40歳が4.8ポイント上昇と最も増加が目立ち、41~42歳(2.4ポイント上昇)、31~35歳(2.3ポイント上昇)と続いた。
◇良好な卵子凍結の成績
オーク会は、5月の卵子学会学術集会で「卵子凍結の現状と管理」を発表した。それによると、2007年9月~22年4月に1923人、3620周期の採卵を実施した。卵子凍結を始めた時期に比べて年々増加している。11年3月~22年4月に凍結した卵子を融解し、胚を移植したのは242人、570周期で16年頃から増加した。移植による臨床妊娠率は患者の卵子凍結時の平均年齢を考慮すると、体外受精や顕微授精などの妊娠率と差がない。
採卵を行った患者の平均年齢=医療法人オーク会提供
◇イメージが変わる
オーク会の田口早桐医師は公的保険適用の影響について「人工授精でととどめていた人たちが、体外受精にも手が届くようになった。経済的な負担が減り、治療を受けやすくなったことが大きい」とした上で、「人工授精と体外受精の間には大きな溝があり、二つは別のものだと考えてほしい」と話す。
もう一つは、イメージが変わったことだ。田口医師によれば、体外受精が治療の現場に登場した頃は「家族が反対しているから」などとちゅうちょする人が多かったという。世間では「体外受精はやってはいけない治療」という負のイメージが強かったわけだ。田口医師は「通常の医療として受け止められるようになったことは大きい」と指摘する。
経済負担が減ったとはいえ、年齢と回数の制限がある。オーク会で採卵を行った平均年齢は、3月の38.2歳から4月は37.8歳となり、0.4歳若返った。「早めに治療を受けたい、という気持ちが働いているのだろう」とみる。
田口早桐医師
◇「秘伝のたれ」は通用しない
今回の公的保険適用についての総合的な評価はどうか。
年齢が高くなるほど、卵子の数は減っていく。「40歳以上の人の回数を多くする必要がある」として回数と年齢の制限に疑問を投げ掛ける。一方で、「保険適用により不妊治療が標準化されたことは大きな成果だ」と言う。
不妊医療の世界では、クリニックによってさまざま治療法が提供されてきた。良く言えば「切磋琢磨(せっさたくま)」だが、効果が期待できないものもあったようだ。当然、公的保険の適用はないオプションの治療で、自己負担だ。田口医師は手厳しく言う。「『悪い音楽を聞くと水は濁り、良い音楽を聴くと水が澄む』と言っているようなものではないか」。さらに「この治療はここだけのものなのですよ」という触れ込みについても、「言ってみれば『うちの料理がうまいのは、秘伝のたれだから』だと言っているようなものだ」と厳しい。標準化すれば、秘伝のたれは通用しない。
今後、保険適用の範囲がさらに拡大され、不妊治療の「標準化」が一層進むことが期待される。(了)
(2022/07/01 05:00)
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