Dr.純子のメディカルサロン

今年はウェルビーイングを考えたい

 病気ではないけれど「なんとなく満たされた気持ちになれない」「なんとなく不調」という声を聞くことが多くなりました。そんな人は「ウェルビーイング」が不足しているのかもしれません。病気でなくても健康とは言えません。

 世界保健機関(WHO)は「健康とは、完全な肉体的、精神的および社会的福祉の状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」と定義しています。こころの健康、ウェルビーイングについて考えてみたいと思います。

(文 海原純子)

 ◇6要素をチェック

 ウェルビーイングという言葉をあまり聞いたことがなかったり、聞いたことはあっても具体的にどんなことなのかよく分からなかったりする人もいると思います。こころのウェルビーイングには六つの要素があると言われています。自分の状態と照らし合わせ、弱いと思う部分がないかチェックしてみてください。

こころのウェルビーイングの6要素

 ◇なぜ満たされないのか

 Aさん(40代男性、企業の中間管理職)のケースをウェルビーイングの観点から点検してみましょう。

 Aさんは家族3人暮らし。業務は時間外労働もあるが、まずは適応していると思っている。ただ毎日がマンネリ化して、仕事が終わるとうんざり感を抱くことも多い。酒を飲んだり時々ジムにも通ったりし、その時はやや気分が良くなる。雇用や将来に対して不安はあるが、「一応上場企業の正社員なので」と思っている。

 Aさんは自己否定していないし、人間関係も悪くありません。生活も経済的には何とかなっています。ただ満たされた気持ちにはなれず、こんなものかと思いながら生活しているといいます。病気などはないけれど、ウェルビーイングとは言えない状況です。六つの要素の中で、人生の目標や自己成長の部分が問題となりそうです。

 ◇必要なのはPERMA

 ウェルビーイングの状態に到達するためにどうすればいいのかという研究は、1990年代後半から米国を中心に行われるようになりました。その中心になっていたのが、ポジティブサイコロジー医学で知られるペンシルベニア大学のマーチン・セリグマン博士です。博士によると、幸福感や充実感を増やし、心の状態をより良い方向に進めるためには次の五つが必要ということです。

 ・P=Positive emotion(ポジティブ感情)
 ・E=Engagement(エンゲージメント)
 ・R=Relationship(人間関係)
 ・M=Meaning(意味)
 ・A=Accomplishment(達成感)

 この中で耳慣れないのはエンゲージメントではないかと思います。心の健康でエンゲージメントというと、「そのことに集中して時間を忘れるようなフロー状態になれること」と言えます。簡単なことばかりしていると退屈してしまいますし、難し過ぎることをするといやになってしまいます。努力すれば次第にできるようになる課題に取りくむとき、こうしたフロー状態が生まれます。

 Aさんは仕事で比較的楽にできる物事が多くなって退屈感が生まれ、生活の中にポジティブ感情が生まれる機会が減少。自己成長して達成するものが不明確になってしまい、ウェルビーイングの不足状態に陥ったようです。

 ◇取り組みやすい改善策

 ウェルビーイングを上昇させる条件として最初にとり組みやすいのはP、つまりこころのポジティブ感情を高めていくことと言えます。ポジティブ感情というと、すぐ楽しいことがないと駄目と思いがちですが、そうではありません。ポジティブ感情は楽しいだけではなく、さまざまなバリエーションがあるのです。平安、感謝、興味、好奇心、愛情、充足感などもポジティブ感情とされています。

 例えば①ジョギングをして気持ちをすっきりさせる②ゆっくりお茶を飲む時間をつくりリラックスする③一日の終わりにきょうあったいいことを思い出す―などもこころのポジティブ感情を高めます。身体のリラックスもこころのリラックスにつながります。ストレッチやマインドフルネスな呼吸などを生活に取り入れてはいかがでしょう。

 感謝の気持ちを毎週15分だけ文章にして書くことでこころの幸福感が高まるという研究報告もあります。夜寝る前にその日誰かにしてもらったいいことを思い出すのも効果的です。こうしてこころのポジティブ感情を高めることで生活自体が変化していくと言えます。エンゲージメントについては次の記事でお話しします。(了)

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