Dr.純子のメディカルサロン

すれ違う人の幸せ願うと自分も幸せになる
~「人の不幸はカモの味」がダメな理由~

 「人の不幸はカモの味」という言葉があります。ライバルが失敗するとほっとする、逆に仲間がうまくいき幸せになると何となく自分が置いて行かれたような気分になる。そんな心理を経験されたことはないでしょうか?

 素直に人の幸せを喜べなかったり、成功を祝うことができないのは人の常かもしれません。つい人との比較をしてしまうものです。でも、こうした人との比較をやめて相手の幸せを願った方が、自分も幸せになるという興味深い論文が2020年に発表されています。

(文 海原純子)

亡くなった瀬戸内寂聴さんは法話で、人の幸せのために生きることが自分自身も幸せにするという「忘己利他」を説いた

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 ◇すれ違う相手に何思う

 アイオワ州立大学の心理学教室でこんな実験をしました。参加者は大学生496人で、この大学生に12分間、学内を歩いてもらうのです。学生を4つのグループに分け、それぞれのグループに次のような指示をしました。

 ①介入グループ すれ違った人が幸せになるように、と心の中でつぶやく
 ②介入グループ すれ違った人と自分にどんな共通点があるか、と考える
 ③介入グループ すれ違った相手より自分が優れている点を考える
 ④対照グループ 相手の外見、どんな服を着てどのような配色の洋服でどんなアクセサリーをしているかだけを観察する

 こうして12分間大学内を歩いた後、参加者の不安感や主観的な幸福感、ストレス、共感性、他者とのつながりなどを測定しました。グループの①から③までは、相手に対しての感情が対象者に与える影響を観察するものですが、④は持ち物だけを観察するというコントロール(対照群)として設定されています。

 ◇他者の幸せ願えば心の健康を維持

 その結果、相手に対し、幸せになってほしいと思いながら歩いた①のグループは、④のコントロールグループに比べ不安が減少し、共感性が増し、他者とのつながり感が増加。②の相手との共通点を考えたグループでも、他者とのつながり感が増加しました。

 一方、③の自分が相手より優れている点を考えたグループでは、感情の改善度が有意に低いことが分かりました。興味深いことは、この結果は、個人の性格や性別などには影響を受けないということです。他者に対し、相手が幸せになるようにと思うことが、自分の心の健康を維持し、不安を軽くするという結果になったと結論付けています。

 最近、通勤や通学の途中でいら立っている人が多いという声を聞きます。歩いていたら前から来た人に罵声を浴びせられた、などという訴えを聞くことさえあります。コロナ禍が続く今、気持ちのゆとりがなくなっている人が多いような気がしますが、12分だけ歩いている間にすれ違う相手の幸せを願ったり、相手との共通点を見つけようとしたりするだけで不安が減少するなら、ちょっとやってみてもいいのではないかと思います。






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