Dr.純子のメディカルサロン

眠りの質が低下するとゼロサム信念に
~マインドフルネス呼吸が有効~

 同僚の仕事がうまくいくと何だか面白くなくて、人が幸せになると自分の幸せが減ってしまうような気分になることはないでしょうか。誰かが幸せになるとその分だけ自分の幸せが減ってしまうような考え方は「ゼロサム信念」といわれています。こうした考え方は、ウェルビーイング(幸福感)を減少させてしまうことが知られています。

睡眠の質を計測するシステム(タニタ提供)

睡眠の質を計測するシステム(タニタ提供)

 興味深いことには、こうした「ゼロサム信念」は、睡眠習慣と大きな関わりがあることが、最近の研究で分かってきました。この研究結果を発表したのは、国立ソウル大学のシン博士らのグループです。博士らは239人の20代の学生のボランティアに睡眠習慣、性格傾向、経済状態、幸福感をあらかじめ調べておき、4週間後に幸福感とゼロサム信念について調べ、睡眠習慣との関わりを検討しました。

 ◇競争意識が強くなる

 その結果、睡眠の質が4週間後の幸福感に影響していることが示されました。

 睡眠の質が低下するとゼロサム信念を高め、それにより幸福感が減少してしまうということです。眠りの質が悪いと「人が幸せになると自分の幸せが減る」と感じるようになってしまうのです。

 その理由は、睡眠の質が低下すると自分の幸福感を感じることより、他者との比較に目を向けることが増え、それにより対人関係で競争意識が強くなり、敵対的になるので幸福感が減少するのではないかと考察されています。ゼロサム信念を減らすことが、幸福感を増やすことに大事だということです。それには、睡眠の質を良くしておくことが必要というわけです。

 ◇寝る前の対策

 睡眠の質を保つためには、まず入眠がスムーズに行くように寝る直前までの仕事は控え、パソコン、スマホの使用はベットに入る2時間前、せめて1時間前には終了するのが望ましいと言えます。

 ただ、どうしても寝る前まで仕事をしなければならないような場合、ベットに入る前に交感神経の緊張を緩めて、リラックスできる状態をつくることが必要です。次のような対策をしてはいかがでしょう。

  足浴をして足元を温めると緊張が緩みます。全身浴の場合は、温度はぬるめにした方が望ましいです。寝る前には、布団の足元を温かくしておくのも寝付きを改善します。

目の疲れをとるには、まぶたに軽く手を当て目をつむり眼球を回す

目の疲れをとるには、まぶたに軽く手を当て目をつむり眼球を回す

  眼精疲労がある場合は、まぶたの上に軽く手のひらを当て、目を閉じて眼球をゆっくり時計回りに回します。スムーズに回るようになったら、反時計回りにゆっくり回します。右目と左目をそれぞれ片方づつ行い、眼球の周りの筋肉のストレッチをすると眼精疲労の回復につながります。目を閉じてすることが大事で、目を開けたままですると眼が回りますから注意してください。ストレッチの後、市販の蒸気アイマスクなどを使うのもいいでしょう。

 ◇自律神経整えるマインドフルネス呼吸

 交感神経の緊張を緩めるには、呼吸が役立ちます。鼻で呼吸をしながら、吸う息の倍の長さで息を吐くという呼吸をする呼吸方法は効果があります。私は次のような方法を教えています。

マインドフルネス呼吸法は、吸い込む倍の時間で息を吐くのがポイント

マインドフルネス呼吸法は、吸い込む倍の時間で息を吐くのがポイント

 右の鼻翼の上を軽く押さえゆっくり1、2、3と数えながら左の鼻で息を吸う

 左の鼻翼の上を軽く押さえゆっくり右の鼻から1から6まで数えながら息を吐く

 これができたら、右の鼻翼の上を押さえ1から4まで数えながら左の鼻で息を吸い、左の鼻翼を押さえ吸った息の倍の1から8まで数えながら息を吐く。

 吸う息の倍の長さで吐くことがコツ。6数えてその倍の12の長さで吐くことが出来るようになると、かなりリラックスして交感神経の緊張が緩むはずです。

 呼吸する時、自分のおなかが膨らんだりへこんだりすることに意識を向け、他のことは頭に浮かんでもすぐにまた呼吸に意識を向けます。

 夜寝る前や緊張する場面でこの呼吸をする習慣は、眠りの質を改善するはずです。

 ◇朝の光を利用

 朝、太陽の光を浴びるとそれから14から16時間後に松果体から睡眠を誘導するメラトニンが分泌されます。朝起きたら窓を開けて太陽の光を浴びることが入眠をスムーズにします。

 ゼロサム信念をやめよう、人の成功や幸せを喜べるようになろう、と思考を変えるのはなかなか難しいものですが、まず眠りの質を良くしようと試してみるのもよさそうです。

(文 海原純子)

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