2024/11/05 16:00
オイシックス・ラ・大地、東京慈恵医科大と共同臨床研究を開始
がん治療の化学療法時における、食事支援サービスの効果を研究
東京慈恵会医科大学細胞生理学講座の劉孟佳特任講師と中野敦教授らによるグループは、胎生期マウスの心内膜細胞がNkx2-5とその下流で働く2つのシグナル因子によってマクロファージに分化する転写制御機構を明らかにし、そのマクロファージは心臓弁の正常な形態形成に必須な存在であることを特定しました。
ポイント:
・ 心臓前駆細胞の運命決定にNkx2-5の下流で働く2つのシグナル因子(レチノイン酸シグナル・Notchシグナル)が関わっていることを明らかにしました。
・ これらの2つのシグナル因子は、心内膜細胞から分化する血球前駆細胞を主にマクロファージに成熟させる役割を担うことがわかりました。
・ 心筋特異的転写因子Nkx2-5とその下流で2つのシグナル経路が働くことで、心臓からマクロファージが産生され心臓の形態形成に寄与していることを明らかにしました。
本研究の成果は、9月5日にNature Communications誌オンライン版に掲載されました。
論文へのリンク先:https://www.nature.com/articles/s41467-023-41039-6
本研究は、JSPS科研費 19K24689および21363933、National Institute of Health (NIH) R01HL127427の助成をうけたものです。
また、東京慈恵会医科大学細胞生理学講座の南沢享教授、Mei Wang大学院生、カリフォルニア大学ロサンゼルス校分子細胞発生生物学の中野治子研究員、川平直史研究員、京都大学医学部循環器内科の中島康弘特定講師、東京大学医学部代謝生理化学分野の栗原裕基教授、内島泰伸助教、岩瀬晃康助教、スタンフォード大学医学部のSean Wu教授らの協力により実施されました。
概要
胎生期の心臓は短期間で大きな形態変化が起こります。多分化能を持つ心臓前駆細胞がいくつかの重要な転写因子の働きにより心臓を構成する細胞に分化します。
Nkx2-5という転写因子に心臓の内膜を構成する心内膜細胞の一部を血球前駆細胞に分化させる働きがあることは明らかにされていますが、本研究では、Nkx2-5の下流で働くシグナル因子を探索することで、より詳細な分子制御機構を解明することを目的とし、研究を行いました。
Nkx2-5欠損マウス胎仔の心臓から、一細胞RNAシーケンスというバイオインフォマティクス解析技術を駆使して、Nkx2-5の下流で働いているシグナル因子の探索を行いました。また、これらのシグナル経路の役割調べました。
研究手法と成果
一細胞RNAシーケンスデータを用い、野生型とNkx2-5欠損マウスの胎仔心臓(胎生9.5日目胚)の遺伝子発現を比較しました。遺伝子の発現様式を元に細胞種を分類したところ、心内膜細胞には5種類あり、そのうち2種類の心内膜細胞がNkx2-5欠損マウスで消失していることを発見しました。この2種類の細胞は、のちの心臓弁や中隔となる心内膜床を構成する細胞と、心内膜細胞由来の血球前駆細胞であることが判明したため、Nkx2-5は心内膜細胞が心内膜床細胞と血球前駆細胞に分化するために必須の転写因子であることを意味します。
続いて、心内膜細胞でどのようなシグナル経路がNkx2-5の転写制御を受けるかを調べるため、野生型とNkx2-5欠損マウスの心内膜細胞全体における遺伝子発現差をバイオインフォマティクス解析したところ、Nkx2-5欠損マウスでは細胞運命決定に重要なNotchシグナルが有意に減少していました。遺伝子組換えマウスを作製して解析したところ、心臓が血液で充満していたことから、Nkx2-5の下流でNotchシグナルを活性化すると心臓から血液が過剰に産生されることが示されました。
今度は、Nkx2-5を欠損した状態で、Notchシグナルを強制発現させると表現型が正常に戻るかを解析しました(レスキュー実験)。すると、Nkx2-5欠損マウス心臓の表現型である心内膜床細胞と血球前駆細胞の欠損がNotchシグナルの強制発現により「レスキュー」されることが観察されました。以上からNotchシグナルがNkx2-5の下流で働くことで、心臓の心内膜床形成と造血が促されることが証明されました。
前述の一細胞RNAシーケンスデータを用いた別のバイオインフォマティクス (NicheNet)解析により、活性型レチノイン酸(all-trans Retinoic Acid; atRA)産生を抑制する代謝酵素Dhrs3が、造血性心内膜細胞分化に最も影響力のあるターゲット遺伝子であることが予測されました。Dhrs3の発現はNkx2-5欠損マウス心内膜細胞で有意に減少しており、血球前駆細胞の分化にはレチノイン酸シグナルが抑制される必要があると考えました。そこで、レチノイン酸の造血細胞分化における役割を調べるため、胎生期の心臓および他の造血器官(卵黄嚢と胎盤につながる背側大動脈部位)から造血細胞を体外で分化誘導する実験を行い、atRA(活性型レチノイン酸)やレチノイン酸阻害剤(DEAB)やNotchシグナル阻害剤(DAPT)の効果を解析しました。その結果、心臓からの血球前駆細胞がマクロファージに成熟する際に、レチノイン酸の抑制とNotchシグナルの活性が必要であることが明らかになりました。また、Nkx2-5下流でNotchシグナルを強制発現し心内膜細胞からの造血を誘導した心臓を解析したところ、マクロファージの産生の増加とDhrs3陽性マクロファージの割合が有意に増加することを確認しました。以上から、レチノイン酸シグナルの抑制とNotchシグナルの促進はどちらも血球前駆細胞の分化とマクロファージの成熟に重要であることを証明しました。
最後に、遺伝子組換えによりそれらの細胞を欠損させたマウス心臓の表現型を解析したところ、心臓弁にコラーゲンなどの細胞外基質の蓄積が変異マウスで認められ、心臓由来のマクロファージが心臓弁の形態形成に必須な役割を持つことが示されました。
まとめ
これらにより、Notchシグナルとレチノイン酸シグナルはNkx2-5依存的な心内膜細胞からの造血およびマクロファージ分化に働き、心内膜床部分から形成される心臓弁の組織リモデリングに寄与することを証明しました。
今後の展開
本研究で心臓からできる血球系前駆細胞を経てマクロファージになる分子メカニズムを証明したことは、これが進化的に保存された生命現象であることを意味します。マクロファージは免疫細胞と思われがちですが、発生期においてはむしろ形態形成に深く関わることが示唆されました。今後検証を進めることにより、心臓におけるマクロファージの役割に関して理解が進み、将来的には先天性の心疾患に関する病態解明などに繋がることが期待されます。
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