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東京慈恵会医科大学消化器・肝臓内科 光永眞人 講師と総合医科学研究センター 岩瀬忠行 教授、横浜市立大学の梁明秀 連携大学院客員教授(研究当時:医学部微生物学 教授)、宮川敬 客員准教授(研究当時:同微生物学准教授)、米国国立がん研究所の小林久隆 主任研究員らの研究グループは、光免疫抗体を用いることで、生物種や薬剤耐性に関係なく様々な標的を選んで破壊、除去できる光免疫治療戦略の基準となる手法を確立しました。
・光免疫療法はウイルス・細菌・細胞といった標的に光免疫抗体を結合させ光を当てることで標的のみを破壊、除去できますが、特に本研究では標的に結合する抗体(モノクローナル抗体)と近赤外光に反応するプローブ(光反応性プローブ)が結合した光免疫抗体を用いることにより多種多様な細胞や微生物を光免疫療法の対象とする手法を確立しました。
・新型コロナウイルスの細胞への感染防止、常在細菌に影響を与えずに多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を除去できる作用が示されています。また、がん細胞への光免疫療法は再発性頭頸部がんの新規治療法として、世界に先駆けて国内で臨床適用されています。
・既存の治療法では制御が困難だったがんや多剤耐性・新興病原体などに対する新たな治療法への展開、また試料中の特定の細胞や病原体のみを除去するバイオツールとしての活用などが期待されます。
本研究成果はPhotoimmunotechnology as a powerful biological tool for molecular-based elimination of target cells and microbes, including bacteria, fungi, and virusesとしてNature Protocolsに2023年11月号(オンライン:11月6日)に掲載されます。
脚注、用語説明
これまでのがん治療とその違いについて:
がん治療のベースとなる多くの抗がん剤は、がん細胞を効果的に排除する一方で、正常細胞をも傷害してしまう弱点があります。近年、がん細胞特異的な治療法が進展してきましたが、今後もより多くの選択肢を増やし、効果的でかつ身体に優しい抗がん療法の開発が望まれています。光免疫療法は、狙ったがん細胞のみを排除するため、副反応の出にくい治療法の一つとなりえます。
これまでの抗微生物剤とその違いについて:
細菌・真菌(カビ)・ウイルスは、目で見ることのできない小さな生き物として「微生物」と呼ばれています。しかし、それぞれの性質は全く異なっており、真菌はどちらかというと細菌よりもヒト細胞に近い構造をしており、ウイルスについてはこれらとは全く異なる構造と性質を持っています。それゆえ、細菌には細菌用の薬剤(抗菌剤)、真菌には抗真菌剤、ウイルスには抗ウイルス剤を開発する必要があります。しかし、10年以上の歳月をかけて開発した薬剤であっても、薬剤耐性株の出現により効力を失ってしまう問題がありました。また、抗菌剤は病原細菌だけでなく、いわゆる善玉菌として知られる常在細菌にも作用してしまうため、腸内細菌のバランスを乱してしまうことも問題になっています。一方、光免疫療法は、がん細胞だけでなく、標的を自由に設定でき、選択的に除去できるため、善玉菌に影響を与えることなく、病原菌を狙い撃つことが可能です。
用語説明:
モノクローナル抗体:標的となる一つの抗原のみに結合可能な抗体(標的に特異的に結合する抗体)を生物工学的に増やしたもので、がんに対する分子標的薬や自己免疫疾患に対する生物学的製剤として昨今の医療で頻用されている。
光反応性プローブ:近赤外光に反応し、構造変化を起こす。
近赤外光:赤色光と遠赤外線に挟まれた領域の光である。光の中では、組織浸透性が高い波長である。暖房機器でよく知られる遠赤外線とは異なり、ほとんど熱を伝達することはない。
光免疫抗体:標的特異的抗体に光反応性プローブが結合している。標的に結合した光免疫抗体は近赤外光により活性化され構造変化を生じ、標的細胞・病原体を破壊する。
研究支援:
本研究は、AMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(重症例由来下痢症起因菌のサーベイランス手法および病原性評価系の確立に関する研究)ならびに文部科学省科学研究補助金の支援を受けて行われました。
主なメンバー:
東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター 岩瀬忠行 教授
東京慈恵会医科大学消化器・肝臓内科 光永眞人 講師、伊藤公博 助教、西村尚 助教
横浜市立大学 梁明秀 連携大学院客員教授(研究当時:医学部微生物学 教授)、宮川敬 客員准教授(研究当時:同微生物学 准教授)
米国国立がん研究所 小林久隆 主任研究員
(2023/11/06 17:22)
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