治療・予防

QOL向上に期待
~遺伝性血管性浮腫(災害医療センター 佐々木善浩医長)~

 皮膚や粘膜が突然腫れるといった症状を繰り返し、場合によっては命に関わる例もある遺伝性血管性浮腫(HAE)は、国が指定する難病の一つだ。新しい治療薬が発売されるなど、治療の幅は広がっている。

 災害医療センター(東京都立川市)消化器内科の佐々木善浩医長は「完治は難しいですが、早期に診断・治療できれば、以前より患者さんの生活の質(QOL)向上が期待できるようになりました」と話す。

遺伝性血管性浮腫の主な治療薬

 ◇多くが診断に至らず

 発症の原因は、生まれつき体内で作られるC1インヒビターというタンパク質が、遺伝子の異常で不足していたり働きが弱かったりして、血管を広げる作用のある物質(ブラジキニン)が過剰に増えることだ。健康な人ではC1インヒビターによって血液中のブラジキニン量は一定に保たれている。

 佐々木医長によると、HAEの有病率は5万人に1人で、日本にはおよそ2500人の患者がいると推定されるが、診断・治療を受けているのはその5分の1程度だという。「この病気は認知度が低く、受診しても正しい診断に至らないケースが少なくありません」

 HAEは精神的・肉体的ストレス、抜歯や手術、けが、出産などがきっかけとなって発症する。症状は、主に手足や顔の皮膚、消化管の粘膜にむくみ(浮腫)が表れる。消化管が腫れると激烈な腹痛に襲われる。また、喉頭が腫れると気道などが圧迫され窒息するリスクもある。多くは3日程度で治まるが、こうした発作の症状は繰り返し起こる。

 ◇短期・長期の予防薬

 HAEが強く疑われると、採血して血液中のC1インヒビターなどの量を調べ、基準値より低いとHAEと判断される。確定診断には遺伝子検査が行われる。

 治療は薬物療法が中心だ。従来は急性発作時に皮下注射製剤(イカチバント)や発作の短期予防薬として静脈注射製剤(C1インヒビター製剤)などが使われていたが、近年は長期予防薬として経口薬(ベロトラルスタット)、皮下注射製剤(ラナデルマブ、C1インヒビター製剤)などが加わった。早期に診断し治療すれば健康な人と同じように生活を送ることが可能だという。

 「原因不明の皮膚の腫れや腹痛などの発作を繰り返す、同様の症状を経験した近親者がいる、という人はHAEの可能性があります。日ごろから自分の症状を観察し、インターネットなどで疾患についての正しい情報を得ることが早期診断・治療につながります」と佐々木医長は話している。

 HAEの診療について相談できる医療機関はhttps://discovery0208.or.jp/hae―info/search/などから検索できる。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

【関連記事】

新着トピックス