治療・予防

女性に多い中枢神経系難病
~再発防止が鍵―視神経脊髄炎スペクトラム障害~

 希少疾患(難病)の患者は日本で5万人程度とされている。原因が不明の病気が多い上に、根本的な治療法が確立されていない。その一つである視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は、中枢神経系の炎症によって視力障害や体のまひなどを生じ、再発を繰り返すと症状が悪化する。患者の9割は女性だ。NMOSDに詳しい医師は「患者にはつらいだろうが、完治しないことを理解してもらった上で、再発を防ぐことが重要だ」と強調する。治療薬の進歩も、再発予防の追い風になるという。

視神経の炎症により失明することもある=アレクシオンファーマ合同会社提供

視神経の炎症により失明することもある=アレクシオンファーマ合同会社提供

 ◇再発で失明することも

 NMOSDの発症は、「補体」という血液中のタンパク質と関係がある。補体は体に侵入してきたウイルスや細菌などを攻撃する免疫システムの一部だが、これが過剰に活動すると、血管から取り込んだ栄養や水分を神経に与えるアストロサイトや神経細胞を破壊する。NMOSDの症状は脳幹や間脳など、脳のどの位置に炎症が現れるかにより異なる。患者数は4000~5000人と推定されている。

 九州大学大学院医学研究院の磯部紀子教授(神経内科学)は「指定難病338疾患のうち神経・筋疾患は84あり、総患者数の28%を占めている。希少疾患に詳しい専門医は少ない」と言う。NMOSDもそうだ。

 「視力の低下が片目、あるいは両目に同時に起こることもある。1回の再発で失明や手足のまひにつながるケースもある」

脊髄の炎症で起きる手足のまひ=アレクシオンファーマ合同会社提供

脊髄の炎症で起きる手足のまひ=アレクシオンファーマ合同会社提供

 しゃっくりが止まらなかったり、吐き続けたりすることもある。磯部教授は「この病気は再発するたびに日常生活動作(ADL)の低下を招く」と指摘する。

 磯部教授によれば、30代後半から40代が発症のピークで、就業に影響が出たり、結婚や出産などのライフイベントを諦めたりする人もいるという。

 ◇不安を抱える患者

 東北医科薬科大学医学部の中島一郎教授(脳神経内科学)は「NMOSDは中枢神経系の自己免疫疾患だ。患者の約3分の2に身体的・精神的な健康状態に悪影響を及ぼすという海外データがある」と指摘する。

 中島教授によると、免疫を抑制する治療を実施しても、10年間で半数以上の患者が再発を経験している。

 「再発すると、失明したり、車いすの生活を送らなければならなかったりする恐れがある。患者は普段から『いつ再発するか分からない』という不安を抱えている」

 ◇希望はある

 自己抗体に関わる免疫疾患は女性の方が多く、NMOSDでは女性が9割を占めている。ホルモンが要因とされる。

脊髄の炎症が排せつ障害をもたらすこともある=アレクシオンファーマ合同会社提供

脊髄の炎症が排せつ障害をもたらすこともある=アレクシオンファーマ合同会社提供

 NMOSDの症状は、視力の低下や脊髄炎による手足のしびれや痛み、排尿・排せつ障害などだ。中島教授の下を訪れる患者の「私は治るのですか」という質問に、「残念ながら治りません」と答えると、患者は落胆するという。「また症状が出ないようにしっかり予防していきましょう」と、患者に治療方針を伝え、励ます。

 「一生続く病気だが、希望はある。以前は平均で1年に1回再発していたが、現在は10年に1回の頻度に抑えられている」

 ◇長時間効く治療薬 

 有効な治療薬は以前、経口ステロイド剤しかなかったという。しかし、ステロイド剤は副作用を伴うため、生活の質(QOL)は高くはない。

 日本人も参加した国際共同第3相試験の結果を基に、5月にNMOSD治療薬として承認されたラブリズマブ(商品名ユルトミリス)は、補体の過活動を抑える薬(補体阻害剤)だ。中島教授は「それまでの補体阻害剤に比べて、長時間にわたり作用する。8週間に1回の投与でよいので、患者にとってのメリットは大きい」と話す。(鈴木豊)

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