治療・予防 2024/11/18 05:00
筋肉の硬直やけいれん
~スティッフパーソン症候群(徳島大学病院 松井尚子准教授)~
厚生労働省による「健康づくりのための身体活動基準2013」を10年ぶりに改定したのが、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」だ。こども、成人、高齢者のライフステージに分けて推奨事項を示すとともに、有効な運動の一つとして初めて筋力トレーニングを挙げたのが特徴だ。さらに、在宅勤務などで座ったままの状態が続くことは、健康面でマイナスになると指摘する。研究班でガイドの原案作成に当たった早稲田大学スポーツ科学学術院の澤田亨教授にポイントを聞いた。
身体活動の概念図。メッツは身体活動の強度を表す指標
◇成人8000歩、高齢者6000歩推奨
世界保健機関(WHO)は世界における死亡の危険因子として、高血圧、喫煙、高血糖に次いで身体活動・運動の不足を第4位に位置付けている。身体活動には、家事や労働、通勤・通学などの生活活動、スポーツやフィットネスなどの運動、デスクワークをしたり、座ったり、寝ころんだりした状態でテレビやスマホを見るなどの座位行動がある。
ガイドでは、身体活動について成人が1日60分以上(1日約8000歩以上の歩行)、高齢者では1日40分以上(1日約6000歩以上の歩行)を推奨している。
澤田亨・早稲田大学スポーツ科学学術院教授
◇あくまでも「目安」
「基準」とすると、それをクリアしなければならないと考え、ハードルが高くなってしまう。結局、試そうという気にならなかったり、始めてもやめてしまったりするケースはよくある。
澤田教授は「推奨事項は目安であり、個人差を踏まえ、強度や量を調節し、できるものから取り組むことが大切だ」とした上で、「全くやらない状態に比べれば、少しでもやった方が健康維持の観点からははるかに良い」と話す。
成人の推奨値である1日8000歩について「1日平均9000歩は歩いていますが、減らした方がよいですか」と、質問する人もいる。澤田教授は「あくまでも目安だ。増やせる人は増やせばよいし、普段ほとんど歩いていない人は3000歩でも4000歩でもよい。その点をぜひ、理解してほしい」と強調する。
◇座ってばかりは良くない
「スクリーンタイム」といわれるテレビ視聴やゲーム、スマートフォンの利用などは減らした方がよい。小学校や中学校、好きなこどもは1日に60分以上、やっているという。これは「座り過ぎ」に関係する。
座り過ぎが健康に良くない理由に関し、澤田教授はこう説明する。米国ハーバード大学の看護師を調査した報告によると、テレビの視聴時間が長い看護師の方が糖尿病を発病する割合が高かった。オーストラリアの研究では、座り過ぎると病気になりやすくなり、結果として寿命が短くなるという報告がある。
どうすればよいのか。澤田教授は「座りっぱなしの時間が長くなり過ぎないように注意するとともに、30分に1回は身体を動かすことを心掛けましょう」とアドバイスする。それは家も職場でも変わらない。研究班の会議では30分に一度、3分間の休憩時間を取ることにした。「コーヒーブレーク」ならぬ「ブレーク」である。それは健康に良いばかりではなく、仕事の作業効率にもつながる。ただ、実行するためには、企業や職域団体、自治体などの理解と取り組みが欠かせない。
筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせたサーキットトレーニング=カーブスジャパン提供
◇筋力と転倒
動くことはなぜ良いのだろうか。例えば、転倒は骨折の恐れが伴うが、筋力のある人は転倒が少ない。つまずいたとしても、バランスを保つことができる。「足が自分が思ったよりも上がらない。次の一歩を踏み出せないような人は要注意だ」と言う。骨に負荷を掛け、骨密度を高める。そのためには足腰の筋力を強化し、筋肉の質を高めていくことが大事だ。
◇筋肉強化の大きな効能
従来、ウオーキングやジョギング、自転車型トレーニングマシンを使った運動などの有酸素運動が推奨され、筋トレは二の次にされてきた。しかし、実際は筋トレが健康維持のために有効だと考える人も多かった。研究班が内外の研究論文をくまなく調べ、筋トレ実施の有無と総死亡、心血管疾患、すべてのがん、糖尿病との関係を確認した。筋トレを行っている人は行っていない人に比べ、これらの疾患の発症リスクが10~17%低かったという。
澤田教授は「サシの入った牛肉を思い浮かべてほしい」と話す。サシとは赤身と赤身の間にある脂肪。フォアグラはガチョウやアヒルの肝臓を肥大させて作る。食材としてはともかく、人間の体にとってそんな状態は問題だ。筋力の強化によって体の代謝率を高め、血糖値を低下させることにもなる。
糖尿病だけでなく、体力はがん予防と関係がある。「体力がある人は明らかにがんのリスクが低い」。澤田教授の研究は当初、誰も信じなかった。今では、病気や健康と運動に携わる研究者の間で完全なコンセンサスを得ているという。
◇筋トレ、自宅でもジムでも
ガイドでは、成人と高齢者に「週2~3日」の筋トレを推奨している。
室内でも、筋トレはできる。直立した状態で、かかとを上げ下げするヒールレイズ、片足を前に出して腰を落とすフロントランジ、足を肩幅に開き、膝を曲げて下がり、再び立ち上がるスクワットだ。ジムに通うのも良いかもしれない。環境が変わることでモチベーションが高まるし、トレーナーとコミュニケーションを取ることで、その人の状態に応じた指導を受けられる。筋トレは有酸素運動と組み合わせると、より効果的だ。(鈴木豊)
(2024/09/12 05:00)
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