2024/12/18 05:00
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「昼休みにひとりで食事をするのは、仲間がいない人間だと思われてしまう」「本当はひとりでゆっくりしたいけれど、ひとりでいると問題がある人に思われそう」ーそんな悩みを聞くことがあります。
つながりが大事なのは言うまでもありませんが、自分と向き合うひとりの時間も大事だということが忘れられがちなのは残念なことです。そんな中、最近ポジティブサイコロジーの分野で「ポジティブな孤独」という概念が研究され、注目されつつあります。ポジティブサイコロジー医学は1990年代後半から米国を中心に発展した分野で、これまでの精神医療が「病気」からの回復に焦点を当てているのに対し、「病気ではないが、元気ではない人」の心のポジティブ要素を増やすことに焦点を当てています。ポジティブな孤独とは、いわば、ひとりの時間を心地良く自分と向き合いながら過ごす時間といえます。
「ポジティブな孤独」とは何か、なぜそれが心の健康に役立つのか、日本ポジティブサイコロジー医学会理事で、現在フィリピン大学ディリマン校心理学部講師の松隈信一郎先生に話を伺いました。
◇「ネガティブな孤独」とどう違う?
松隈信一郎氏
海原 松隈先生、よろしくお願いいたします。「ポジティブな孤独」についての研究論文が最近発表されています。先日もイスラエル大学で自分と向き合う「ポジティブな孤独」の時間をつくっているような人たちは「ネガティブな孤独感」に陥るリスクが軽減されるという発表がありましたが、「ネガティブな孤独」と「ポジティブな孤独」はどのように区別していけばいいでしょうか?
松隈 ネガティブな孤独は「ひとりぼっちで寂しい」という多くの方がイメージする孤独感や苦痛を伴う経験です。一方、ポジティブな孤独は、自らひとりでいることを能動的に選択して、その時間を楽しみ、大切に過ごすというものなので、ポジティブな経験になります。「自分の時間を持ちたい」と自発的に決めたものになるため、周囲の目が気にならないのもポジティブな孤独の特徴だと言えます。
海原 日本ではつながりの重要さが叫ばれていて、「ひとりでいるのはよくない」という風潮があるのですが、そのあたりはどのようにお考えですか。
松隈 確かに、人とのつながりがウェルビーイングにとって重要であるという研究も多々ありますし、人間関係やコミュニティーのつながりが希薄化している分、つながりの重要さが叫ばれるのは、至って自然なことだと思います。一方、「ひとりでいること = ネガティブな孤独」だと捉えている方が多いため、「ひとりでいること」が「つながり」の対極に位置するものであると誤解しているのではないかと思います。もう一つの「ポジティブな孤独」は「つながり」の対極にあるものではなく、同居するものであり、ウェルビーイングを高める上でも大切な要素になります。ポジティブな孤独の認識が広まると、このような風潮はなくなるのではないかと思います。
◇自分と向き合う時間も大事
海原 先日発表されたイスラエルの調査の対象は高齢者でしたが、若い世代と高齢者世代でポジティブな孤独の重要さは同じなのでしょうか。
松隈 若い世代にとっても、ひとりの時間は非常に重要だと思います。これはメンタルヘルスの観点だけでなく、自己のアイデンティティー形成においても不可欠です。特に日本の学生は「独りぼっちだと思われたくない」「友達がいないと思われたくない」という理由から、ひとりでいることを避ける傾向が強いと感じています。日本にいる時も多くの学生と関わりましたが、「他人からどう見られるか」に多くのエネルギーを費やし、疲れてしまった子たちが何人もいました。そのため、他人の「好き・嫌い」が判断基準になり、自分の内的な感覚を感じられなくなり、就職活動で「やりたいことが分からない」と嘆く学生が多い印象を持っています。このように、ひとりの時間は若い世代にとって自分の感覚を取り戻すためにも非常に重要だと思います。
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